稀有な生物多様性の宝庫を襲った悲劇

 ナイジェリア南部の海岸線沿いに広がるニジェール デルタ。このエリアは豊富な天然資源と世界第三位の面積を誇るマングローブと壮大な湿地林を有し、かつては数千種に及ぶ動植物が生息する生物多様性ホットスポットとして世界的にも知られていた。

 しかし、皮肉にも、その極めて高い生態学的価値にもかかわらず、世界で最も深刻な環境破壊が進む地域の一つでもあった。国家の石油産業の中心地であるこのデルタ地帯では、これまでに推定7,000件もの原油流出が発生し、生態系に甚大な被害をもたらしていた。

 自然保護活動家レイチェル・イケメは2013年、初めてこの地を訪れた。そして、森林にたたずんだときに膝の高さまで原油が堆積しているのを目の当たりにし、衝撃を受けたという。彼女は直面する状況を憂い、コミュニティ主導の自然保護活動プログラム「南西部・ニジェール デルタ森林プロジェクト(SWNDFP)」を立ち上げた。

 地域の緊張した社会政治情勢の中でイケメは何年にもわたり啓発活動と交渉を重ねた結果、2021年、1,000ヘクタール以上もの自然保護区の設立に成功。保護区では、彼女が主導するプログラムによって地域住民が主体となって監視・保護を担い、その地道な活動は現在までに5,839ヘクタール以上の森林、そして少なくとも13種の絶滅危惧種の保護という実績を上げ、マングローブ林では水産資源を回復させるなど目覚ましい効果をもたらした。

 また、社会経済面においてもインフラや環境衛生の改善・拡充、生計プログラムの多様化など、地域の生活向上にも大きく貢献している。今後、彼女は「ロレックス賞」の支援を受け、地域住民に向けた自然保護に関する教育施設の創設や移動型教育プログラムの構築に取り組み、さらに周辺地域にその活動の拡大を目指す。

 「2021年に活動を始めたころ、私がやっているようなことをしている女性はいませんでした。実際、ナイジェリア人自体がこのような活動を行っていなかったのです。しかし、何かが変わりました。チームのメンバーが、コミュニティの少年に大きくなったら何になりたいかと聞いたことがあります。すると、彼は私を指差したのです。それを思い出すと今でも涙ぐんでしまうのです」と語る。

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