北杜夫は娘には本当に優しかった
近田 北杜夫さんというと、「どくとるマンボウ」として知られる温和でユーモラスなイメージがありますが、怖かったりしたんですか。
阿川 北さんは、お嬢さんに対しては本当に優しかったんですけど、躁うつ病(現在の双極症)があって。
近田 なるほど。確かに、エッセイなんかでも、よく躁うつ病について書いてらっしゃいましたもんね。
阿川 特に躁病の時は大変で、勝手に生原稿を売っちゃったり、家具を売っちゃったり、株を買っちゃったり、とにかくハイになっちゃう。
近田 エッセイでは相当オーバーに話を盛ってるのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだ。
阿川 躁とうつの症状が現れる周期は、若い頃は頻繁だったんだけど、齢を重ねるうちに、だんだん間遠になって、晩年には躁とうつの中間を保っている時期が長くなり、もう躁病になることもないだろうなと思っていたら、ある日、10年ぶりに躁を発症しちゃったんですって。
近田 いきなり元気になっちゃったんだ。
阿川 娘も娘で、「パパ、これは飲みに行かなきゃ!」とか言って、出版社の担当者を連れて、銀座に飲みに行って。それで、ちょうどその頃、ノーパンしゃぶしゃぶが話題になってたの、覚えてます?
近田 はいはい、あったねえ。大蔵省の役人が、ノーパンしゃぶしゃぶで接待を受けて、問題になったりしてたよね。
阿川 銀座の後に、「僕は結構です」って断る編集者を無理やり連れて行ったんですって。北さんが会社の会長で、娘の由香ちゃんはその秘書、そして、編集者二人はそこの社員という設定。
