芸人仲間の実家に住み続けて約10年
最後にひとつ。以上の話には、欠かせない前提がある。現在、渡辺は、同期芸人であるカゲヤマ・益田康平の実家(二世帯住宅)の一部、通称「益々荘」に住んでいる。約10年にわたって芸人仲間の実家に住み続けている事実は、しばしば奇妙なエピソードとして披露されがちだ。
ただ、この家には広い調理スペースとコンロがあり、中華鍋を振れる余白があった。もしこの環境がなければ、ネギ油は作られなかったかもしれない。チャーハンへのこだわりも、鍋の前で過ごした時間も、存在しなかったかもしれない。生活を支える余白があったからこそ、彩りは立ち上がった。物理的な家の存在が、世間の評価から身を守る文字通りの防護壁になった面もあるだろう。自分自身を奪われないためには、一定の資源が必要とも言い換えられる。
そんな家で渡辺は、鍋を振り、シャツにアイロンをかけ、ブーツを磨く。その様子の魅力は、動画を見てもらったほうが早いだろう。もっとも、そんな動画視聴も、別に「やらなくてもいい」行為かもしれない。だが、そうした余剰のなかに、希望とは呼ばずとも、何かの抵抗力になるものが紛れている場合がある。
「やらなければならないこと」を、「やらなくてもいいこと」で彩る。生きることは、チャーハンで飾られなければならない。
