この街の性格は一言では言い表せない。歴史の重みを纏って品格ある表情を見せたかと思えば、街角の店先には素朴な港町らしい愛嬌が滲む。捉えどころのない魅力の正体を探しに、路地の奥へ。
静かな気品漂う街の秘められた素顔を探して
リグーリア海に面したジェノヴァは、かつて海を制した海洋国家だった。街角にはためくジェノヴァ共和国の象徴、赤十字の旗はかの時代の栄華を感じさせ、現在もその誇りのもとに街が生きていることを感じさせる。
街の中心部へと足を踏み入れると、背後に迫る山の斜面に沿って家並みが折り重なり、海と山に抱かれた地形の狭間にジェノヴァが形づくられてきたことを実感する。
迷路のように伸びる路地の薄暗い一角からは中世の余韻が立ちのぼり、旅人は否応なくこの街の時間へと引き込まれていく。
「ジェノヴァは何一つ“捨てなかった”街。交易の拠点として古代ローマの時代から西洋文化を見てきた歴史のすべてがこの街に残っている」。ある住人の言葉が記憶に残る。
ヴェネツィアのような官能的な華やかさはここにはない。
代わりに、貴族の宮殿が堂々と立ち並ぶストラーデ・ヌオーヴェもいにしえの教会も、重厚な静けさのなかに奥ゆかしい気品を宿している。その質朴な美しさこそ、ジェノヴァをジェノヴァたらしめる香気なのだろう。
誇り高さゆえか、閉鎖的と揶揄されてしまうこともあるジェノヴァ人の気質。しかしひとたび接すれば港町らしい人情味溢れる親しみやすい人々だとわかる。
路地の奥に突如現れる商店や人と出合うたび、自分だけの宝物を見つけた気分になるのも楽しい瞬間だ。石畳の迷宮の街で、自分だけが知るジェノヴァの魅力を探したい。
CREA Traveller 2026年冬号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
