類似品が出ても出ても、オリジナルだけが残る不思議
今この時代に“ロングセラー”がロングセラーであり続けるのは、とても難しいこと。ハッキリ言って、最近の新製品のクオリティは、きわめて高い。ネガティブのある新製品をちょっと意地悪に探しても、もう見つからないくらい。当然、新製品は既存品を必ずどこかで超えてこようとするから、やっぱりコスメ市場には“新製品しか売れない”という偏った状況が生まれる。
でもそんな中、さらに売り上げをのばしていくロングセラーが存在する。今またロングセラーが新しい注目を浴びているのだ。ここまで進化が目覚ましい時代に、なぜ存在がくすまないのか、なぜ売れ続けるのか? コスメ界最大の謎として、あらためてその魅力が研究し直されているからなのだ。
最近は、こう思うようになった。ロングセラーの中のロングセラーは、もうスーパーロングセラーという特別なカテゴリーを作ってしまいたくなるほど別格の存在であると。ハッキリ言って同じような製品が市場にあふれているのに、やっぱりそればかりが売れ続けてしまうのだから。
たとえば、YSLのラディアントタッチ。発売は25年前。ハイライターでもコンシーラーでもない。でも目の周りや頰など、明るく見せたい、キレイに見せたいところに塗ると肌が整って見え、“美人オーラ”が生まれる“魔法の筆先”と呼ばれた1本。その後、類似品が山ほどデビューしたが、でも売れ続け、生き続け、今もベストセラーであり続けるのは結局この1本だけ。それどころかますます元気、シーズンごとにピンクのラディ、ゴールドのラディなど、トレンド肌を意識したスペシャルな1本を提唱し続け、ファンを増やしているのだ。
それは、類似品は消えても“オリジナル”だけが最後まで支持され続けることを物語った。だからもう“別もの”と言ってもいいが、他のものと何がどう違うのかと言うなら、これはほんのわずかなサジ加減の違い。つまりこれは処方の小さな違いが奇跡的な絶妙バランスを描いているということ。
料理に置きかえて考えてみるとわかりやすいかもしれない。材料や使っている調味料はまったく同じ、なのにその味は、ピンからキリまで大きな差が生まれてしまう。化粧品も同じなのだ。
2015.11.04(水)
文=齋藤 薫
撮影=釜谷洋史