初のエッセイ集『ラリルレ論』刊行に見る転機
伊藤 RADWIMPSの話に戻しますが、個人的には彼らのメジャー2枚目のアルバム『RADWIMPS 4~おかずのごはん~』が好きなんです。特に「いいんですか?」が好きで、歌詞には「唐揚げ」とか「おかず」とか「ご飯おかわり」とかフードワード連発、しかも面白い。
山口 “フードミュージックプロデューサー”を自称する伊藤さんとしては、見逃せないですね。
伊藤 まぁ僕が“フードミュージックプロデューサー”とか名乗っちゃうずっと前の話なんですけどね(笑)。
山口 どんなところに注目していましたか?
伊藤 「有心論」も『RADWIMPS 4~おかずのごはん~』も2006年なんですけど、この頃のRADWIMPSの歌って、とてつもなくラブソングで、“好きで好きで仕方ない”って感じの曲ばかりだったんだけど、最近の曲は随分と様変わりしたなぁ、という印象。RADWIMPSっていうのは野田洋次郎そのもので、彼の世界がこのバンドの世界で、未来も彼次第。そんな彼が俳優業に手を出したってことは、変化の時なんでしょうね。良くも悪くも?
山口 若いバンドと思っていましたが、もう30代ですね。『ラリルレ論』というエッセイ集も出版しましたし、音楽の枠だけでは表現衝動が収まらなくなっているのかもしれません。
伊藤 そうですね。「ピクニック」という曲もRADWIMPSの変化の時を告げる一曲になっていると思う。このコラムでも日本のロックバンドを語る上でよく使う言葉“RADWIMPS世代”、今まさにこの世代が膨れ上がり飽和して、構築されて溢れて。そして自らがそれをぶっ壊そうとしている、そんな曲だと思いました。
山口 なるほど。この曲から受ける作詞アナリスト伊藤涼の妄想分析は、どうなりますか?
伊藤 病院の長い廊下を歩く、壁に手をついていないと倒れてしまいそうだ。洞窟の出口のような正面玄関から注ぐ外の光はまるで天国か何かのようで、あまりの神々しさに余計に目がクラクラする。周りには白い服を着た人々が忙しなく動き回っていて、その残像が白い糸を引きずり、いつかの水族館で見たクラゲの大群を思い出させる。本当はさっきの先生の言葉に、酷く絶望してるだろう僕は、それを受けいれないように頭の働きを制御しているようだ。
自動ドアが開くと目が眩み、一瞬目の前は真っ白になり、そのあとにケヤキの緑が画面を支配する。真ん中には焦点の合いきらない君……。耳にはヘッドホンをしたようなダイレクトな蝉の声、そのバックグラウンドに車の行き交う音。肌は汗をかき、生きていた、と実感する。暑い、と言ってみる。
君が笑ったような気がした。これは恋だと思う。頭はグルグルと混乱をはじめ、絶望でもなく希望でもないなにかが動き出す。君が笑った。ヤバイなこれ、と思ったら目の前が真っ暗になる。もう君も見えないし、音も聴こえない。ただ、君が僕に触れたような気がした。
山口 ショートムービーみたいです。
RADWIMPS「ピクニック」
ユニバーサル ミュージック 2015年6月10日発売
完全生産限定商品[CD+Hard Cover Art Book]1,300円(税抜)
■RADWIMPSは、野田洋次郎を中心に結成され、2005年にメジャーデビューを果たした4人組。「ピクニック」は、6月6日(土)から全国公開される野田洋次郎初主演映画『トイレのピエタ』の主題歌。ジャケット写真で大写しにされた抽象画のような被写体は、劇中で野田が演じた主人公が絵を描く際に着用したデニムのつなぎだという。
■「ピクニック」作詞・作曲/野田洋次郎
■オフィシャルサイトURL http://www.radwimps.jp/
2015.05.31(日)
文=山口哲一、伊藤涼