世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第85回は、小野アムスデン道子さんが、フランスで経験したとっておきのエピソードを綴ります。

ルネサンス時代にタイムトリップする古城の宴

ロワール川沿いに広がるトゥールの市街。

 フランスのロワール地方の中心、トゥールの町までは、パリからTGV(高速列車)に乗ればわずか1時間ほど。そんなに近いのに、ロワール川沿いには数々の古城が立ち、パリとはがらりと雰囲気が変わる。しっとりした中世の雰囲気が残る町では、香り高い白ワインにおいしいチーズが味わえる。

 そんなロワールでワインやお菓子作りを学んだり、カーヴ(ワイン貯蔵庫)でワインの試飲をしたり……。やってみたいことを叶えますという旅行社に招かれた“わがまま成就”の旅には、数々のサプライズが待っていた。

トゥールの駅を出る。この駅舎は、今はオルセー美術館になっているオルセー駅と同じくヴィクトール・ラルーの設計。
町中には中世の木骨造りの家がそのまま残るところも。

 夕方に到着すると、そのままフランソワ1世らヴァロワ朝の王たちゆかりの佇まいも美しいアンボワーズ城へ。お城が開いているのは夕方までのはず? しかし、鉄格子の城の門は開いていて、前には何か人影らしきものが……。近づいてびっくり、なんと道化と門番が立っている。

城に近づくにつれ人影の正体が分かってびっくり。中世の姿のお出迎え。しかし、よく見ると道化の人がメガネをかけている。

 このアンボワーズ城は、ルネサンス時代に栄華を誇った由緒ある城。レオナルド・ダ・ヴィンチもこの城に呼ばれ、今も敷地内のチャペルに眠るという。世界遺産登録もされているが、見学だけではなく実は城内や庭園でパーティも可能なのだそう。そして今宵は城内の大広間で、みんなが中世の衣装を着て、飲み物や食事も中世風で楽しむというサプライズだった。

お城を入ってすぐに待ち受けているのは役者さんたち。王と王妃も様になっている。

 少し奇妙ではあるけど、コスプレ文化の私たちも負けずに着替えてパーティに臨む。ヘッドドレスや帽子をかぶるので何とかごまかしが利くような。地元の方々は、とても様になっていて、まさにタイムトリップという感じ。

左:ゲストはこちらでお着替え。
右:赤ワインには丁子やショウガ、シナモン。白ワインにはハーブを入れた中世のアペリティフが振る舞われる。

 シェフも中世料理人の格好で出て来て、フォークは中世では先が2本だったことから悪魔の形とされたため使わずに手でつまんで食べたとか、ナイフは男性がポケットに入れて持参したとか、いろいろ蘊蓄も聞かせてくれる。カトリーヌ・ド・メディシスがイタリアから持ち込んだというマンドリンのような古楽器などの演奏もあり、気分はすっかりルネサンスな夜となった。

左:賑やかに諸侯やその奥方、王とお妃気分で宴会。 右:旬の白アスパラを使ったクリームスープはスターター。パンをちぎって横の人と分け合うなどちょっと中世を真似た食べ方で。

2015.05.12(火)
文・撮影=小野アムスデン道子