世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第82回は、大都会・香港のイメージを覆すトレッキングコースに挑んだレポートを芹澤和美さんがお届け!

地中海沿岸を思わせるトレッキングコースへ

 ニョキニョキと立ち並ぶ高層ビルと、エネルギッシュなビジネス街、原色の看板が連なる繁華街。そんなイメージが強い香港は、総面積の40%以上を、カントリーパーク(日本の国立公園にあたる)や自然保護区が占める自然豊かな街。実際に地図を見れば山ばかりなのは一目瞭然だし、香港島のビジネス街にいても、はっきりと山を見ることができる。

香港4大トレイルのうちのひとつ、「香港トレイル」にあるドラゴンズ・バックからの眺望。

 そんな香港には、総延長400キロを超えるトレイルも整備されていて、トレッキングは人気のレジャー。各トレイルは約10~20キロごとに区間が区切られ、それぞれの接続地点には、バスやタクシーが通る車道がある。1区間だけ歩き、街に戻ることも容易だし、全トレイルを何回かに分けて歩くという楽しみ方も可能だ。

アジアのベスト・ハイキングコースにも選ばれたことがあるドラゴンズ・バック。

 ビジネスの中心である香港島のセントラルから向かったのは、「龍脊(ドラゴンズ・バック)」。タクシーで30分もあれば到着するここは、香港のなかでも、メジャーなトレッキングコースだ。道が整備され、登山標識も分かりやすいので、初心者でも安心して歩ける。龍の背中を意味する名前は、小さな丘がいくつも連なり、尾根がくねくねと曲がっていることに由来するのだという。

コースの入り口には、かわいらしいドラゴンが描かれた標識が。たしかに、尾根はくねくねと曲がっている。

 1キロ1時間と書かれた標識からスタート。緩やかな上り坂を歩き始めて10分もすると、潅木の間から瀟洒な西洋風の中層アパートが並ぶ入り江が見えてくる。その先をさらに進むと、両側に視界がバーンと開けた尾根が。右手に見えるのは、蒼い海と白亜の建物が並ぶビーチ、左手には、穏やかな湾と高級リゾートマンションだ。

花を眺めながらのんびりトレッキング。コース上には500mごとに里程標があり、その番号と地図を見合わせれば、自分がいる現在地を容易に確認することができる。

 地中海リゾートのような風景が見えてきたら、まもなくゴール。尾根は海風が強いので少々歩くのに苦労するが、もうひと息。頂上に着くと、つい2時間前まで摩天楼の中にいたことさえ忘れてしまう幻想的な光景が待っていた。

頂上に到着。雲の切れ間からうっすらと太陽の光が漏れ、光の柱が放射線状に湾へ降り注いでいた。

2015.04.21(火)
文・撮影=芹澤和美