命の危機を乗り越え、無事スタートした自然哺育

 そして、2025年8月5日午前4時55分頃、ついにメイがアオを出産。予定より早く、加えて早朝の出産となりました。

「万全の体制で立ち会う予定でしたが、予定日より早い出産だったため、出勤した際、すでに立ち上がっている子ゾウを発見して驚きました。

 出産前、日本各地の動物園さんにゾウの出産シーンを観させていただきましたが、ゾウの出産は壮絶で、具体的な理由はわかっていませんが、母親が子を投げたり、踏もうとしたりすることがあります。また、ゾウは群れにいる仲間のゾウの出産や子育てを見て学ぶとされますが、メイは推定2歳で日本に来たこともあって、子育てを見たことがないのではないかという懸念がありました。でもメイは、出産時にパニックにならず、赤ちゃんに寄り添ってくれていました」

 多くの哺乳類は、免疫の面で初乳を飲む必要があります。アオは誕生してすぐに立ち上がることができていましたが、メイの乳首に口が届かず、初乳が飲めずにいました。その後も母乳がなかなか飲めない時間が続いたそうです。

「もし初乳を飲めなかった場合は、血漿を飲ませたほうがいいという文献を読んでいたので、事前に妊娠中のメイの血液から血漿を採っていました。それを飲ませることができたのでひと安心だったのですが、ゾウは群れで生活する野生動物ですし、人間が育てるのはかなり難しく、今までに成功例がほとんどありません。だからこそメイに育ててもらいたいし、赤ちゃんが自力で母乳を飲んでほしいと思っていました。

 アオは哺乳瓶にはすんなりと順応して人工ミルクを飲んでくれていたので、人工ミルクをメイの胸にスプレーし、垂れたミルクをたどって自然と乳首に吸い付いてくれないかなど、手当たり次第にいろんなことを試したので、何がよかったか、今となってはわからないのですが、誕生から7日目に母乳を飲んでいるアオを確認した時は本当に安心しました。

 自力で母乳を飲めるようになってからの次の課題は母乳が足りているのか、病気にかからないかというところです。他にも当園は山の中にあるので、広島市内に比べると雪も積もりやすいため、寒さで体調を崩したり、凍傷にかからないように暖房設備を用意したり、寒い冬に向けて部屋の中に藁をたくさん敷いたりしました。

 ただ、寒いからと言って、部屋の中にずっと閉じ込めておくわけにはいかないですし、掃除も必要です。天気がいい時は、運動場を雪かきして、そこに出している間に掃除をしていましたが、外にも暖房を置いたり、屋外で過ごす時間は短くしたり、その日によって状況を見極めながら飼育していくことで無事に冬を越すことができました」

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