食卓を囲んで知る、素顔の梨園

 話が深まるにつれ、客席からは決して見ることのできない、役者たちのあたたかな素顔も立ち現れてくる。

 「私は白塗りの下地には『ニベア』を薄く塗っていますね。化粧の持ちがよくなるんですよ」という食事の場ならではのこぼれ話や、「主役が動いている横で、じっと動かずに我慢している役が一番大変。気持ちを抜くとお客様にすぐ伝わってしまう」といった舞台裏のリアルな苦労。妻のかずこさんからは、「歌舞伎役者さんは人間味が溢れすぎていて、基本的に全員小学生のよう。早く着替えて帰る速さを競い合ったりして……」といった愛あるエピソードが飛び出し、食卓は温かな笑いに包まれた。

 「楽屋の鏡台は役者にとって神聖なものだから、妻でも使ってはいけない」「眉毛を描いている最中の役者には絶対に声をかけてはならない」という梨園ならではの厳格な掟を教わりつつも、目の前で繰り広げられるのは、私たちと変わらない微笑ましくあたたかな夫婦の掛け合い。

 客席と舞台というそれぞれの立場を一時的に降り、同じ食卓で豊かな時間を共有する。この近しい距離感で彼らの「日常」に触れるからこそ、次に劇場へ足を運び、スポットライトを浴びる友右衛門丈を見上げた際、そこに立ち現れる圧倒的なオーラと非日常の世界が、より一層くっきりと際立つことだろう。ここで交わした会話を持ち帰って観る舞台は、これまで以上に深みと奥行きを持って心に響くに違いない。

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