東京・赤坂に佇む「ANAインターコンチネンタルホテル東京」。日本庭園を臨む日本料理「雲海」に足を踏み入れると、静謐な空気の中に華やかな秋の気配が満ちていた。

 今回体験したのは、インターコンチネンタルが大切にするブランド体験のひとつ「Insider Expertise(心遣いが光るインサイダー)」をもとに国内4つのホテルで新たに展開されたプログラムのひとつ、現役の歌舞伎役者と食卓を囲む「歌舞伎と美食のプライベートダイニング」だ。

 格式高い梨園の世界。劇場という客席から見上げる遠い存在であった歌舞伎役者が、目の前の同じテーブルに座り、共に料理を味わう。その圧倒的な非日常と、ふと覗く人間味あふれるあたたかな日常が交錯する、贅沢なひとときの記録をお届けする。


特別な口上から始まる至高のダイニング

 静寂の中、紋付き袴姿で現れたのは、八代目大谷友右衛門丈。まずは挨拶代わりに、本プログラムのために特別に仕立てられた「口上」が述べられる。※予約日程により出演する役者や内容は異なります

「……仰せのごとく一円に西も東も真っ赤にて見事なことでござりまする。見ればあれなるこのもとに万幕を打ち巡らし、うちに数多の人影によるは。見事なことでございます。紅葉を巡る人なろう」

 新歌舞伎十八番『紅葉狩』の一節を盛り込んだ友右衛門丈の朗々たる声が響き渡ると、一瞬にしてその場が格式高い舞台空間へと昇華する。しかし驚くのは、観客として耳を傾けていた口上で自らの名前が読み上げられる瞬間だ。役者と観客の垣根が取り払われ、これから食事のひとときを共にする相手として招かれたような唯一無二の高揚感に包まれる。

 口上が終わり、日本料理「雲海」の美しい会席料理が運ばれてくると、空気は和やかなものへ。今回特別に同席した妻の青木かずこ氏も交え、杯を交わしながらの会話が始まった。

 「かつてクリスチャン・ディオールのメイクアップアーティストだったセルジュ・ルタンス氏が来日した際、私の着る『お納戸色』の着物や舞台装置の色彩を見て『合わない色同士を合わせているのに、なぜこんなに見事に調和するのか分からない』と驚いていました。当時、西洋から見ると『日本のファッションの色合いはどうしてこんなに暗いんだろう』と思われていたそうです。日本の伝統美には独特のわびさびの色合いがあるのですよ」と友右衛門丈。

 乾杯の直後から歌舞伎通の心をくすぐるエピソードの数々が惜しみなく紡がれていく。

「歌舞伎の衣装は重いものだと20キロを超えます。『助六』の花魁揚巻の衣装が重そうに見えるんですが、実は『髭の意休』と呼ばれるお大尽の衣装が一番重いんです。金糸を贅沢に使っているので値段も最高級で、本当に重い。年配になってからやる役なんですが、みんな『二度とやりたくない』と言うくらい辛いんです」

「自分を指さす仕草も年齢によって全く違います。若い女性が指す時は胸を張って掌を上に向けて高めに。年を取ると重心が下がるので、手の位置もだんだん低くなる。高齢女性の役では座る時も色気を出す時も『お尻から動く』んですよ」

次のページ 食卓を囲んで知る、素顔の梨園