資源をもたない日本はどこに向かうべきか
――資源もテクノロジーも持たない日本は、どういう方向に変わっていくべきなのでしょうか。
大場 エネルギーのことを考え始めると、「強い日本へ」とか「経済成長を」となりがちで、そのメッセージについていけていない人も一定数います。日本が変われない問題の大きな部分は、計画経済が、過去の構造を守るための計画経済になっているということ。そして、それを打破できると思える人が少ないことです。
私の仮説は、「国の成長も大事だが、迷惑をかけたくないし我慢もしたくない個人の成長を希求している人たち」が結束し、気候変動という問題を1つのテーマにしながら、これまでのラディカルな気候正義運動以上に広がっていけるかどうかだと思います。そうなったときに初めて、日本の硬直した経済の構造的な問題を打破できる可能性があって、結果としてGDPも成長し、政府も強くなり、人々も心が豊かになる、という方向に向かえるのではないかと思います。
斎藤 私が考えるべきだと思うのは、日本企業は90年代以降のコーポレートガバナンス改革の中で、計画経済的な良い面を捨て去ってきてしまった、ということです。設備投資や研究開発費を増やさず、シンクタンクを潰して、目先の利益だけを追うようになってしまった。
その20、30年の間に、アメリカに匹敵するかそれ以上の技術を国家レベルで育てることに成功したのが中国です。中国はある意味、日本の戦後の計画経済をしたたかに学び、体制を作り上げてきた。高市政権はアメリカ一辺倒ですが、各国が自国中心になっていく時代にアメリカだけにフルベットするのはリスクが高すぎる。むしろ中国から改めて学びながら、アジア圏として気候変動に対処していくネットワークを作っていくことが一つの道だと思います。
大場 東アジア向けの対外エネルギー政策が非常に重要になっているフェーズだと思うんですが、私が見る限り日本はうまくいっていないですよね。日本では、火力発電を輸出するという発想がまだ強いから。
斎藤 20世紀のカーボンデモクラシー日本版というのは、アメリカにくっついて日米安保のもとで守られるものだったけれど、21世紀はカーボンデモクラシーが崩れていくからこそ、それを転機として、中国と新しい関係を東アジアで作っていく道があるのではないかと思っています。現政権は、その真逆を走っています。アメリカが日本を守る理由ももはや薄れてきている中では、別の道を考えなきゃいけない。
大場 今こそ、やはり日本はエネルギーの自立、自律を目指すということが大事ですね。その先に、「満タンの世界」でも人々の心が豊かになる道があるように思います。
» 【初めから読む】「日本は危機を不可視化している」「すでにこの国は社会主義的で…」経済思想家・斎藤幸平×エネルギーアナリスト・大場紀章が語る“日本のエネルギー政策の死角”
・この対談は文藝春秋PLUSにて公開された動画(10月4日、5日公開)をWEB記事用に抜粋・再構成したものです。
・動画では対談の様子をすべてご覧いただけます。
https://youtu.be/htQViojZttc?si=zMKC_pIJIU5_pxtd
https://youtu.be/Y0k4Xcg_P-E?si=FB8xRZI4ITgMzhxZ
大場紀章(おおば・のりあき)
ポスト石油戦略研究所代表・エネルギーアナリスト。1979年生まれ。京都大学理学部卒(化学専攻)。同大学理学研究科博士課程単位取得退学。民間シンクタンク勤務を経て現職。株式会社JDSCフェロー。専門は化石燃料供給、エネルギー安全保障、次世代自動車技術、物性物理学。共著に『シェール革命 経済動向から開発・生産・石油化学』など。
斎藤幸平(さいとう・こうへい)
東京大学准教授。1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授を経て、東京大学大学院総合文化研究科准教授。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。著書に『寝ながらヘーゲル』など。

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