世界各国で相次ぐ異常気象と、資源を巡る争い。気候変動とエネルギー危機が重なり合うこの時代を、資源を持たない日本はどう生き抜いていくべきか。

 経済思想家・斎藤幸平氏と、エネルギーアナリスト・大場紀章氏が、危機の時代の『豊かさ』とは何か、左派的な思想をこの国で伝えるには何が必要かを、それぞれの立場から語り合った。(全2回の2回目/初めから読む)※発言内容は対談時点(9月下旬)のものです

» 【初めから読む】「日本は危機を不可視化している」「すでにこの国は社会主義的で…」経済思想家・斎藤幸平×エネルギーアナリスト・大場紀章が語る“日本のエネルギー政策の死角”


斎藤 思想的な話だと、最近私は「空っぽの世界から満タンの世界へなっていく」という話を発信しています。20世紀はエントロピーが低く、まだ資源も豊富にあった「空っぽの世界」で、どんどん油田を掘って環境負荷を外部化しても、余裕があったから無限の成長を語ることができた。でも今は「満タンの世界」になってきていて、資源も減ってきているし、出口側も気候変動という形で可視化される被害が出てきている。

大場 安い石油が残っているのは中東やロシアだけなので、今ウクライナやイランで起きているような、ああいう戦争に発展しやすい。

斎藤 そうです。だからまさに「満タンの世界」では資源も奪い合いになるし、EVにしてもリチウムも奪い合い、銅も奪い合い……という時代になってくる。トランプも習近平もプーチンも、この満タンの世界で力になる「資源」に照準を合わせてきていて、金融が中心だった時代から、土地・資源という重商主義的な時代に回帰しつつあります。日本は資源のない時代に成長できた国だけに、この回帰はかなりきつい。

大場 部分的に中世に戻ってきているようなところがありますよね。また特に石油に関しては、あれだけEVを進めていても、世界全体でみると、石油の限界が来るスピードに、自動車の電動化による石油消費の削減のスピードが追いついていない。だからこそ、より先行して対策を取っている国のほうが有利になってしまう。

日本には「具体的な敵」がいない

大場 斎藤さんの思想的な構造分析は共感するところが多いんですが、例えばアメリカにおける気候変動の「敵」は、エクソンモービルのようなオイルメジャーという、分かりやすい対抗軸がある。日本にはそれに近いものがない。欧米と同じ文脈を日本に持ちこんでも、ピンとくる人が少なくなってしまうという問題がありませんか。

 日本で理想的な民主的計画経済を実現して、GDPだけではなく、みんなが豊かに生きられる社会を作ることができれば、それは日本のモデルとして世界に発信できる。斎藤さんにはそういう存在になってほしいと個人的には思います(笑)。

斎藤 社会的な関心にそこまでならないのは、日本にそうした具体的な「敵」がいないということが大きいですね。AIの問題においても同じで、グーグルもテスラもアマゾンも、アメリカの企業だからこそ「日本が規制しようとしたときにどうなるのか」というリアリティがない。アメリカではバーニー・サンダースの「グーグルを国有化しよう」という主張がリアリティを持って盛り上がれるけれど、日本はそういう意味で、石油の問題もAIの問題も、できることがあまりないのかな、という気もしてしまいます。だからといって、アメリカに追従するだけなのも変な話であって。大場さんはどうすればいいと思いますか。

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