一つひとつの工程に宿る技術的卓越性の追求
ドイツ語に「インジェニアスクンスト(エンジニアリングの芸術)」という言葉がある。それを体現したものづくりを行っているのがケルン郊外にあるリモワの工場だ。
ここではアルミニウム製の“Classic”コレクションの全量と“Original”コレクションの一部が製造されている。
「あらゆる細部が緻密に設計・検証され、絶えず磨き上げられる。技術的卓越性への追求に終わりはありません」と語るプロダクト最高責任者、ファニー・シュリッケ氏。その理念は、約5トンという巨大なアルミニウム・マグネシウム合金のコイルにも込められている。
グルーヴをひび割れなく形成するために延展性を極めた合金配合。さらに経年硬化を避けるために、陽極酸化処理が施され、工場に届けられる。
ClassicとOriginalでは、パーツの切り出し方から異なる。Originalのプロセスでは、コイルから形成金型で抜かれた、グルーヴ入りのパーツが切り出される。
一方、Classicでは、まず四角いシート状の素材が切り出され、その後ローラーを通してグルーヴを形成、さらにキャスター用の穴開けなどを、職人が工具を用いて手作業で行う。Originalと比べて10倍の時間と手間を要するが、この工程なら特注品の製造が可能になる。Classicの製造ラインを有しているのは、ケルン工場のみだ。
どちらのプロセスにおいても、経験を積んだ職人の技術が必要となることは変わりがない。特に驚かされるのが、ボディの組み立てが完了し、上蓋と下蓋が合体したところで施される工程。
「すべてのスーツケースは、防音キャビンに入れられ、最も経験豊富な職人によって“マッサージ”されるのです」(シュリッケ氏)。
プレス、切削、穴開けにネジ止めなど、あらゆる金属加工で負荷をかけられたアルミボディは、対抗張力によって激しく歪んでいる。それを熟練の職人が、ハンマーと自らの手だけを頼りに、ケース全体を叩きもみほぐすようにして歪みから完全に解放するのだ。
「専門性の高い彼ら職人は、ごくわずかな調整の必要性までも見極めることができます。そしてそこで得られた知見は、定期的に生産チームと共有されるのです」とシュリッケ氏は語る。
職人の厳しい目による最終検品を通過した美しいトランクが箱詰めされていく。一つひとつが、まさにインジェニアスクンストの結晶なのだ。
CREA Traveller 2026年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
