CREA2026年秋号の「1冊まるごと人生相談」特集が、現在好評発売中! CREA WEBではその一部を抜粋してご紹介します。
仕事や恋愛、生活スタイル……私たちの日常は悩みだらけ! 編集部に寄せられた「ふつうの相談」を“その道”のトップ・プロフェッショナルに聞いてみたら? 返ってきたのは、なんだか安心できる、心強いアドバイスばかりでした。
【相談】「昔はよかった」……過去ばかり振り返ってしまう
今の暮らしに不安や不満があるとき発動しがちな「昔はよかった」という思い。中世ヨーロッパ史―都市が発達し、古代地中海世界の学問が再度本格的に入ってきた12~13世紀を専門とする研究者は、この懐古バイアスをどう見るのか。
答える人:中世史学者 後藤里菜
中世ヨーロッパの人は、昔も現在も一本の線としてつながったものとして、歴史を見ていました。新しいものに価値を置かず、古代の著作を権威とする価値観なので、「昔はよかった」と過去を評価するこの相談者の見方は、中世の人っぽいと言えるかもしれませんね。
私は歴史を“過去”として距離を取って眺めるのではなく、その時代に没入してしまうタイプです。キリスト教における「聖女伝(女性聖人たちの生涯や奇跡の記録)」を書いた男性がどんな目で女性を見ていたのかを知りたくて、その著者の男性のことを調べ始め、気づけばその男性に憑依しかけている……。過去を見ているというより、“存在”への興味から、もうそこに行ってしまっている感じです。
そういう自分からすると、過去というのは、点として掘り起こすものではないと思います。過去といっても、それは自分が経験してきた過去、知っている範囲の過去でしかない。だとすれば、その過去は“今、ここ”にいる自分を作っているものでしかないわけです。
過去を美化してしまうときこそ、“あの頃”だけを切り取るのではなく、そこから今の自分までの線をたどり直してみる―その時、愛おしい自分の姿が見出されるのではないか。それがこの悩みへの、私なりの答えです。
後藤里菜(ごとう・りな)
1986年愛知県生まれ。青山学院大学文学部史学科准教授。専門は西洋中世史、心性史、女性神秘家。著書に『沈黙の中世史—感情史から見るヨーロッパ』(ちくま新書)など。
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文=伊藤由起 写真=平松市聖
CREA 2026年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
