小さい女の子と力強い人間が共存した応援歌
山口 ライブの評判が良いので、観てみたいです。作詞アナリスト伊藤涼的には、この作品はどうなんですか?
伊藤 サビ頭の「I just can not ~」というリフレインで始まるところは、やはり洋楽っぽい世界観をもった楽曲なんですけど、サビケツの「戦わずして負けるなんて出来ない」がやけに気になる応援歌。小さい女の子と力強い人間が共存しているようで、良い意味で違和感のある曲になっています。
山口 なるほど。
伊藤 この丘は戦争によって一面焼き尽くされた。あたりから煙が上がり、灰の臭いと灰になりきれなかった物たちの臭いが蜷局(とぐろ)を巻いている。まだ髪の毛一本ほどしか開いていない隙間から照らす朝日の中、ギシギシと音を立てるものがある。少女だ。まだ10歳ぐらいだろうか、腰まで垂れた絹のような髪で朝日を掴まえ、瓦礫の中から這い出してきたのだ。家族を失い、家を失い、昨日までの生活を失った少女。今ここに、まともな大人がいれば彼女を憐み、惜しみなく手を差し伸べるだろう。しかし、彼女の瞳はそんな大人の憐みを受け入れるような石っころじゃない。明日までは失っていない、そんな輝きを放っている。まるで『スタンド・バイ・ミー』のリヴァー・フェニックスのようであり、『ぼくらの七日間戦争』の宮沢りえのようでもあり、ドラクロワの描いた自由の女神のようでもある。少女は生き残り、そして荒野に立っていた。
山口 今回の「I'm Scarlet」に触発された「妄想分析」も映画的ですね。たくましさを持って、長く続けてほしいユニットですし、この曲も売れてほしいですね。
moumoon「I'm Scarlet」
エイベックス・エンタテインメント 2014年8月27日発売
CD ONLY 1,000円、CD+DVD 1,800円(税抜)
■水川あさみ主演のTBS系火曜ドラマ「東京スカーレット~警視庁NS係」主題歌。Moumoonは、YUKAとKOUSUKE MASAKIの2人組。2007年にメジャーデビューを果たした後は、資生堂、アサヒ飲料、キヤノンなど一流企業のCMに楽曲が起用されている。
■「I'm Scarlet」作詞/YUKA 作曲・編曲/K.MASAKI
■オフィシャルサイトURL http://www.moumoon.com/
Column
来月、流行るJポップ チャート不毛時代のヒット曲羅針盤
音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!
2014.08.12(火)
文=山口哲一、伊藤涼