母親に向いていない気持ちと、子どもを愛する気持ちは両立する

──朝日新聞のデジタル版では、コメンテーターとして活動されています。お子さんが生まれてから関心を持つニュースにも変化はありましたか?

 もう2年くらい、子育て関連以外のニュースにうとくなってしまいました。それこそもともとは新聞記者をやっていた人間なので(笑)、それなりに毎日、新聞を読んでいたんですが、今「トランプ政権ってどうなってる?」って質問されても、まともに答えられない。

──出産や子育てを経て、ご自身の日々の関心事にも変化があったんですね。その変化をどのように感じていますか?

 受け入れ難いものもたくさんあります。体型も変わっちゃいましたし。基本的に私は、時代も変わるし年齢も変わるのだから今までとは違うところで頑張ろう、とかなかなか簡単に思えない人間なんです。30歳になった時も死ぬほど嫌だったし、40歳になった時なんてもっと嫌でした。妊娠した時も、嬉しいより先に、自分が思っている自分らしさみたいなものが削がれていくような感覚がありました。

 以前はずっと長く尖ったスカルプネイルをしていて、それが自分のアイデンティティのひとつになっていたんです。今時こんなネイルしている人なんて私とagehaモデルくらいしかいなかったから、歌舞伎町か渋谷のネイルサロンじゃないとできなくて。たまにケガして爪をちょっと短くしていると「涼美じゃないみたい」なんて言われるくらいでした。

 だから出産前に病院で、「数日後にはネイルをすべて外してきてください」って言われた時は、大事にしていたものをパチンパチンって切られた気持ちになりました。バイタルチェックなら、足でもできるじゃんって思って、「足だけじゃだめですか?」って泣きついたんですが、「そんな長い爪で新生児を抱っこできないでしょ」って諭されて、泣く泣く短くしました。

 「短い爪でも楽しもう」とか前向きに考えられるタイプじゃなくて、心情的に必ず一度ぶーたれるんです。だから、お酒こそ飲んでいませんでしたが、出産ぎりぎりまで歌舞伎町などで遊んでました。もう今はそれも頻繁にはできなくなっちゃって悲しいし、寂しい。

 独身の方が向いていると思うことは今でもしょっちゅうあるんですが、子どもは全力でかわいい。このふたつの感情は決して矛盾してなくて、同時に走っている感覚です。母親になんてならなければよかったと後悔することはあっても、子どもがかわいくないという話にはならないというか。もちろん人それぞれですが。

 ただ、今も常に「お母さんはこれをすべきじゃない」という世間が貼るレッテルには全力で抗っていきたいと思っています。

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鈴木涼美(すずき・すずみ)

小説家。1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了。小説第1作『ギフテッド』が 第167回芥川賞、第2作『グレイスレス』が第168回芥川賞候補。他の著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『「AV女優」の社会学 増補新版』『トラディション』『ノー・アニマルズ』『典雅な調べに色は娘』などがある。

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