国民的キャラクターを生んだやなせたかし夫婦をモデルにした朝ドラ『あんぱん』が、ついに最終回を迎える。3月からスタートし、全26週で構成された本作で、アンパンマンが生まれたのは終盤、8月後半だった。

 あんぱんを手に空を飛ぶ太ったおじちゃんのキャラクターは、嵩(北村匠海)が紆余曲折しながらも、ようやく辿り着いた「逆転しない正義」の象徴だ。妻であるのぶ(今田美桜)だけは、その良さを理解してくれるものの、スタイリッシュなヒーロー像とかけ離れた元祖アンパンマンは、世間に全くウケない。ようやっとアンパンマンがあの姿に生まれ変わるのは、第24週のことだ。

 第25週「怪傑アンパンマン」では、大ヒット曲を手がけた盟友・いせたくや(大森元貴)の発案で、アンパンマンの舞台化が決まる。結果的に満員御礼の初日を迎え、国民的大ヒットへの兆しを感じるようなエピソードだったが、ブレイクのきっかけであるアニメ化は、そのさらに10年以上も先のことである。 

朝ドラは「毎日休めない短距離の全力疾走」

『花子とアン』以来2度目の朝ドラ脚本を手掛けた中園ミホは、『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』と3度の朝ドラを経験した脚本家・岡田惠和から、こんなことを言われたそうだ。

「中園さんは朝ドラをマラソンだと思っているでしょ? でも違うんだよ。毎日休めない短距離の全力疾走なんだよ」(「BRUTUS」2025年9月1日号)

 かくいう筆者も朝ドラは、ゴールが遥か先のマラソンだと思っていた。けれど、連続ドラマも一話完結型の需要が高まる時代。とりわけ昨今の朝ドラは、半年間もの並走に付き合ってもらうために、ストーリーの工夫だけでなく、リスクヘッジも求められる。

 15分×5日=1話の構成は、通常のドラマよりも視聴者のフラストレーションが溜まりやすいのではないか。一度否定的に感じてしまうと、視聴者自身も負のループから抜け出しにくい。となるとたしかに、毎回15分の中に、小さな“ゴール”となるオチや見せ場を設けるほうが、現代の視聴者には合うのかもしれない。

 ……となれば、大器晩成のやなせたかしの人生を朝ドラにすること自体が、とてつもなく難しかったのではないだろうか。

2025.09.28(日)
文=明日菜子