――演じる上でも、そうした現場の雰囲気やセッティングから得られるものが大きかったのでしょうか。

 賢治が惹かれるのは、忘れ去られていくであろう場所……最後の記憶みたいなものが残っているけれど消え去ってもいく場所なので、監督はそういう「なくなったものの気配がまだ残ってるような場所」を探していたのだと思います。実際に撮影で使われたのも、本物の劇場の廃墟でした。

――キャストもスタッフも、みなさん多国籍だったそうですね。

 撮影前はいろんなことが起きるだろうと身構えていたのですが、実際の撮影現場では、「映画を撮るということは国が違っても同じことなんだ」という喜びの方が大きかったです。撮影や照明のスタッフの方々も、それぞれが真利子監督のビジョンに共鳴して、この作品に参加したいという人たちばかりでした。このような作品においては、感性を共有するメンバーが集まっていることが大切なんだと改めて実感しました。

これから挑戦してみたいことは?

――国籍も言語も文化的背景も違うメンバーたちが、真利子監督のもとでチームとして創作に取り組む様子から、現場の引き締まった空気感が伝わってきます。改めて、西島さんがこれから挑戦してみたいことがありましたら教えてください。

 そうですね……なんでもいいんですか?(笑) 最近ちょっとだけ釣りをやってみたらとても良かったので、もう少し本格的にやれたらなと思っています。海もいいですけど、川が気持ちいいですね。

――森のなかでの川釣りのように、自然のなかで過ごす時間は気持ちが豊かに満たされますね。そうしたひとときは俳優活動にも良い影響を与えてくれそうです。最後に、これからこの映画を観る読者へのメッセージをお願いします。

 実際に、賢治やジェーンのようにキャリアと家庭のことで悩んでいる人、または過去の出来事に囚われてなかなか抜け出せない人もいらっしゃるかと思います。僕自身は、この映画を観た時にジェーンにもとてもシンパシーを感じました(※ジェーンは人形劇の監督・演出・脚本家であるクリエイター)。

 自分が好きでやっていることがあって、生きていく上で本当にかけがえのないものだけれど、そのことは周りの人からはなかなか理解されにくい。そういう状況にいる人たちにとって、この映画が何か小さなきっかけや開放感につながればうれしいです。悩んでいる方にこそ観ていただきたいと思っています。

西島秀俊(にしじま・ひでとし)

1971年生まれ。東京都出身。大学在学中より俳優活動を始め、1992年に本格デビュー。『ニンゲン合格』(1999年/黒沢清監督)、『Dolls』(2002年/北野武監督)、『CUT』(2011年/アミール・ナデリ監督)などに出演。主演映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年/濱口竜介監督)は米アカデミー賞にて国際長編映画賞を受賞。自身も全米映画批評家協会賞主演男優賞を受賞した。近作に『首』(2023年/北野武監督)、『スオミの話をしよう』(2024年/三谷幸喜監督)、A24製作のApple TV+『Sunny』(2024年/ルーシー・チェルニアク監督)、待機作にPrime Video『人間標本』(2025年12月19日配信開始/廣木隆一監督)などがある。

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』

9月12日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・脚本:真利子哲也
出演:西島秀俊 グイ・ルンメイ
配給:東映
©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
https://d-stranger.jp/

2025.09.12(金)
文=あつた美希
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=亀田雅
スタイリスト=オクトシヒロ