壊れた関係をいかに立て直すか

――物語の結末には驚きがあります。虚無感や悲しさに加え、ある種の開放感のようなものも少し感じました。西島さんご自身はどう受けとめられましたか。

 これは、僕の演じた賢治という父親としての役割を果たせていなかった人間が、最終的に“本当に父親になる”という物語でもあります。結末にもし開放感があるとしたら、賢治がようやく“父親になれた”ということからくるものかもしれません。

――この映画を観終えたあと、西島さんご自身にはどのような気持ちが残りましたか。

 なんというのか……かすかな希望と救いがある、という感覚でした。僕たちは、この日常がずっと続くと思って生きていますが、実際には日常というものはとても脆く、新型コロナや震災の時のように、何かの拍子に崩れてしまうことがある。この映画でも、やっと理解し合えたと思った矢先に、日常が再び崩れ去る出来事が描かれています。

 そういった外からの災厄みたいなものに直面した時に、どうやって人生や日常を立て直すか。それは現代においてとても重要なテーマなのではないかと感じました。そして関係が壊れてしまってももう一度構築していくことができるかもしれない、というかすかな希望が、ラストに描かれているのではないかと思います。

――真利子監督は「人は愛とは何か分かり合いたいからこそ悩み、滑稽なほど不器用に真摯に生きていく」と話していました。西島さんがこの映画に感じたテーマは何でしょうか。

 コミュニケーションの難しさや、人間関係の希薄さから生じる問題がテーマになっていると感じました。世界が狭くなった分、異なる文化が共存せざるを得なくなり、新たな衝突も起きている。そういった現実を、家族という形に落とし込んで描いているのがこの映画だと思います。観る方によって、希望を見出すか、混沌を感じるか、捉え方が変わることも含めて、観客の方に観ていただくことで完成する映画だと考えています。

悩んでいる方にこそ、観てほしい

――ニューヨークでの撮影についてお聞かせください。

 ロケーションが印象深いですね。ニューヨークといってもマンハッタンのようなきらびやかなイメージがあるところではなく、ブルックリンやクイーンズといった場所で撮影しています。古いチャイナタウンがあったりするような、歴史と生活感のある場所です。僕の役は移民でもあるので、実際にそうした人たちが懸命に生きてきた場所で撮影できたことは、幸運でした。

2025.09.12(金)
文=あつた美希
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=亀田雅
スタイリスト=オクトシヒロ