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 好評発売中の「CREA」2025年夏号では、母娘問題、職場の人間関係から、性やお金の悩みまで、OVER THE SUN(ジェーン・スーさん、堀井美香さん)のおふたりをはじめ、叶姉妹のおふたり、みうらじゅんさん、上沼恵美子さんなど様々な「人生相談の名手」に読者の悩み相談に乗っていただきました。

 今回の回答者は僧侶の南直哉さんです。

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【相談】死とは一体、何ですか?

【回答】それは誰にもわかりません(南直哉さん)

 人の悩みは様々あれど、古今東西、どんな人でも避けては通れないのが「死」に関する悩みではないだろうか。

 漠然とした死への恐怖や不安、大切な人を失った喪失感、二度とは関係を修復できない後悔、「死とは何か?」「人はなぜ生きるのか?」といった人間の根源に関わる疑問――。

 そんな「死」への答えを求めて、今回は南直哉さんにお話を伺った。「この世でいちばん死に近い場所」といわれる霊場恐山の禅僧で、30年以上もの間、悩みを抱えた人々の話を聴き続けてきた、まさに「人生相談のスペシャリスト」だ。

死が怖いという人は別のものを怖がっている

「よく『死とは何か?』と聞かれるのですが、結論から言いますと、それは絶対にわからない。なぜなら、死ぬ時には、死を経験する当人がいなくなるからです。「死」の意味とは、絶対的なわからなさ、なのです」

 落語さながらの飄々とした語り口で、あっけらかんと笑う南さん。しかし、実は南さん自身、幼少期から「死とは何か?」という疑問にとらわれ、答えを求めて仏門に入ったという。

「そもそも『死』という言葉で、人は何を言おうとしているのでしょう? 例えば、ある人が『死が怖い』と言ったとき、それは死に伴う痛みを怖がっているのか、それとも死んだ後どうなるかが不安なのか、あるいは今あるものすべてを奪われるのが恐ろしいのか。怖がっている本人も明確にはわかっていないことが多い。本人が怖がっている以上、その恐怖は実在するでしょうが、大半の人は『死が怖い』と言いながら、実は別のものを怖がっているんですね」

 南さんいわく、人間の悩みの大半は、生き死にとは無縁の生々しい人間関係に因るものだという。

「今の時代、死にたいとまでは言わなくても、こんなふうに生きるのは嫌だとか、漠然とした生きづらさを抱えている人は多いですよね。そういう人でも、突っ込んで話を聞いていくと、実は会社の人間関係がうまくいっていないとか、死んだ親との確執をいまだに抱えているとか、まったく別の問題で悩んでいることが多い。そういう場合、好きだの嫌いだの恨んでいるだのの感情が先に立つと判断を誤るので、問題となっている関係性をドライに紐解いて、例えば物理的な距離をとるなど、その人の置かれた状況を変えるように助言しています」

2025.08.12(火)
文=井口啓子
写真=平松市聖

CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

1冊まるごと人生相談

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