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会場での飛び入り相談に回答!

司会 せっかくの機会ですから、本日お越しのみなさまの中にも「私の悩みを言ってみようかな」という方はいらっしゃいませんか。(挙手あり)ではそちらの女性の方、どうぞ。

相談者 私は企業の広報の責任者をしておりまして、スピーチのゴーストライターをやったり、ビデオレターのセリフを考えたり、日々、企業のトップのイメージアップに奔走しているんですけれども、いかんせん、トップの人気がなくて。

――(会場笑い)

相談者 トップは60代前半の男性なんですけれども、私どもが努力してみんなに好きになってもらおうとしたことを消して回るようなことをやっちゃうんです。社内での求心力がどんどん下がっていくので、もうどうしたもんだか……。

中野 お察しします(笑)。ご本人は本当に好かれたいと思ってらっしゃるんですか?

相談者 好かれたいとか、かっこいいとか、知的だとか思われたいんだろうなっていうのは感じます。

中野 好かれたいと思っている人って、実は好かれていない自分のほうが落ち着くんです。

――(会場がどよめく)

中野 愛されない自分がデフォルトで、その状態が安心なんですね。トップの方もそんな人のような気がします。企業のトップになるような方だから、すごく努力もされた方ではあると思うのですが、自分に価値がないから自分を追い込んで、だから力が発揮できていると思っている節がないでしょうか。

 まず、「自分は尊敬されるに足る人間だ」ということを受け止めてもらわないといけないので、そのトレーニングのほうが先かもしれません。尊敬されるマインドセットを植え込むために、「下にも置かぬ、周りはトップの大ファンばかりというテイで扱います」と予めお伝えして、ご本人は居心地が悪いかもしれませんけれど3カ月ぐらいがまんしていただいてそれをやる。だんだん態度がこなれてきたら、先ほどおっしゃったようなイメージアップの施策に移るというのがスムースだと思います。うまくいくことを願っています。

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中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。著書に『サイコパス』(文春新書)、『ペルソナ 脳に潜む闇』(講談社現代新書)、『咒(まじない)の脳科学』(講談社+α新書)など多数。近著に『悩脳(のうのう)と生きる』(文藝春秋)、『ゾンビ化する社会』(岡本健さんとの共著/KADOKAWA)など。

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2025.08.09(土)
文=小峰敦子
写真=平松市聖