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Q「10年以上前から、娘を愛せない」

司会 次のお悩みです。

Q2 42歳の主婦です。長女は高校2年生に、長男は中学生になりました。娘はソフトボールの部活動に夢中で、息子も野球部に入りました。家族はみな健康で、傍から見れば平凡ながら幸せな家庭だと思います。でも、実は10年以上前から長女がかわいいと思えないんです。息子はかわいくて仕方ありません。なぜか娘を愛せないことを誰にも悟られないよう必死に隠していますが、普通に娘のユニフォームを洗濯したり、お弁当を作ったりしているフリをしながら、なぜ愛せないんだろう、どうしたらいいんだろうと思い悩んでいます。

中野 夫婦に関する実験があるんですが、相手のことをどれだけ分かっているかというテストをすると、新婚の夫婦の場合はどれぐらいの正解率だったと思いますか? 実は約4割なんですよ。

 では結婚20年目の夫婦の場合はどうでしょう? なんと正解率は2割を切るんです。

――(会場笑い)

 新婚で4割の正解率というのもなかなかの低さだと思いますが、それでも相手のことをどんどん分かっていくのかと思ったら、正解率はどんどん下がるんです。

 愛情は見えない。見えないから何かプレゼントしたり、言葉をかけたり、手紙を渡したり、一緒にイベントに出かけたりする。見えないから、こうして態度で示すんですね。

 「愛せるように努力しましょう」と言うのは簡単ですが、努力して愛せるようにするのは無理です。でも、愛している顔はできるはずです。愛せない自分は愛せない自分としてバックヤードにしまっておいて、愛する顔をする練習をするといいと思います。

中野 既にあなたはそれを始めていますよね。娘を愛せないことを必死に隠し、ユニフォームを洗濯したり、お弁当を作ったりして愛しているフリをしている。そうしなければ、娘の人格形成に影響を与えてしまうと気づいているあなたは素晴らしいと思います。

 正直に何でも言うのがいい、本音を言い合うのがいちばんいいんだという風潮がありますが、隠しておくのが知性なんです。優しい嘘をつくのが大事な場合があるんです。

 「娘のことを愛している感」「娘のためにやっている感」を出すという、あなたがやっている優しい嘘でいいのです。そうやって親であることを演じきりましょうよ。そして「娘を愛せない」は、墓場まで持っていきましょう。

 演じているお母さんに、お嬢さんも大人になったら気づくと思います。ちょっと合わないお母さんだったけど、一生懸命育ててくれたなと、感謝すると思います。

2025.08.09(土)
文=小峰敦子
写真=平松市聖