ぱっと見には不気味だけど、慣れてくるとかわいらしくもあり、眺めているうち、知り合いに似ているような気もしてくる……。
妖しくも魅惑的な「人がた」の何者かを表した絵画や彫刻が、そこかしこに並ぶ展覧会が、島根県立石見美術館で開催中だ。現代日本を代表するアーティスト加藤泉による、過去最大規模の個展「加藤泉 何者かへの道 IZUMI KATO: ROAD TO SOMEBODY」。

「人がた」の謎めいた印象
加藤泉は1990年代後半から、本格的な表現活動のキャリアをスタートさせた。当初から描くテーマは一貫している。シンプルな顔かたちをした、人とも動物とも宇宙人ともつかぬ「人がた」と呼ぶ者の姿だ。

描く画面に変化はありつつも、加藤は黙々と「人がた」を描き続け、そのイメージは徐々に世に定着していく。2000年代に入ると国内外の展覧会で発表されることが増え、2007年には現代美術の世界的祭典「ヴェネチア・ビエンナーレ」への出品も果たし、話題を呼んだ。
加藤が生み出す「人がた」は、フォルムが極限まで単純化されていることもあって、表情の機微や感情を読み取ることができない。それゆえ観る側に謎めいた印象を与えるし、おそらくは人によって見え方がまったく変わってくる。怖くて正視できないという人もいるだろうし、逆に「キモかわいい!」と喜んだり、ユーモアを読み取って微笑ましさを感じる向きもある。「人がた」それ自体がカオスな状態である。

加藤泉本人は「人がた」について、
「絵のなかに情報をできるだけたくさん入れ込んで、いろんなふうに見られるようにつくっている」
と語る。作品をどう見てもらってもかまわないし、解釈は人それぞれで当然というわけだ。
さらに加藤は自作を称して、
「夕陽のような作品ができたらいい」
とも話す。見る人の感覚や感情によって受け取り方が百人百様となる夕陽に、作品のありかたの理想形を見ているのだ。
2025.08.02(土)
文=山内宏泰