この記事の連載

祖母からもらった「スーパーホスピタリティ」

――「ウッ! リコリータ!」という章で、短期間で親密になったお友達といきなり音信不通になり、心配しながらも自分の行動が間違っていたのではないかと葛藤されるエピソードは揺さぶられました。

 あの話も書くのには勇気がいりました。自分でも恥の部分と思っていたので誰にも話したことはなかったですし。でも、「誰にも言えなかったけど、私も同じような経験があります」というコメントをいただいたりして、書いてよかったなと思います。

 時間が経って、冷静になって考えてみたら、相手に喜んでほしいという私の気持ちが大きくなりすぎて、「利他プレイ」のつもりが、利己的になっていたのかもしれないと気づいたんですよね。

――自分の非を認められるところが素晴らしいです。書くことによって救われるという局面もあるのでしょうか?

 ありますね。モヤモヤした気持ちも、なぜあんなに辛かっただろうと思うことも、書くことによって感情が整理されます。事件を解決するみたいに、客観的に検証できる。

 私は祖母からもらった「スーパーホスピタリティ」を自分も受け継ぎたい、与えられる人になりたいと思ってきましたが、その気持ちが大きくなり過ぎて、邪魔になっていたのかもしれないと気づきました。自分が良かれと思ってする行動が、誰に対しても心地よいとは限らないということを発見できた気がします。

――エッセイを書くようになって、他のお仕事に何か影響はありましたか?

 生活が変わりました。どうしてもネタがなくなってくるので、家にいても何も起きないから外に出てみようとか。休みの日に午前中から活動するなんて、午後2時まで12時間寝ていた私からしてみたら、ものすごく大きな変化でした(笑)。

 こんな自堕落な人間も世の中にいるって思ってもらえたら、読んでくださる方に「私、頑張ってるじゃない」と自信を持っていただけるんじゃないかなと。

――ただ、ご自身のことを綴るのではなく、この言葉、このエピソードに触れることで、読者にとって少しでも良いことがありますように! という祈りが込められているのを感じました。あとがきは読んで泣きそうになったくらいです。

 ありがとうございます。相手に少しでも心地よくなってもらえたら、というのは、私の中で通底して思っていることかもしれないです。

 みなさん、日々喧騒の中で生きていらっしゃるから、この本を読んでいる間だけでも、安心できたり、心を落ち着けたらいいなと。ちゃぶ台でゆったりとお茶を飲んでいるような気分になれ!! と願いを込めながら書いていました。

» 後篇を読む

今日も、ちゃ舞台の上でおどる

定価 1,870円(税込)
講談社
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

坂口涼太郎(さかぐち・りょうたろう)

1990年生まれ、兵庫県出身。俳優、シンガーソングライター、ダンサー。2007年、森山未來主演・演出のダンス公演『戦争わんだー』でダンサーとして初舞台に立つ。2010年『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』で俳優デビュー。主な出演作に、連続テレビ小説「おちょやん」(20年)、「らんまん」(23年、ともにNHK)、映画「ちはやふる」シリーズ(16~18年)、映画『アンダーニンジャ』(25年)など。舞台では木ノ下歌舞伎で多く活躍。今年はKAAT神奈川芸術劇場プロデュース音楽劇「愛と正義」に出演し話題に。「ソノリオの音楽隊」(E テレ)ではダンサー兼振付師として出演。現在ドラマ「愛の、がっこう。」(フジテレビ)に出演中。

次の話を読む「自分の全てを肯定していいのか?」『ちはやふる』ヒョロくん役でブレイク。俳優・坂口涼太郎が語る「自己肯定感」ブームへの違和感

2025.08.04(月)
文=黒瀬朋子
写真=平松市聖