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初めての葬儀に参列して

その日、Nさんがハッキリと記憶している最初のお葬式が始まりました。
Kくんが住んでいた田舎の屋敷の大広間には白黒の垂れ幕が張られ、お線香の香りが充満していました。
広間の奥には笑顔のKくんの遺影と白くて段々とした花だらけの祭壇が置いてあり、その向こうには小さな木製の棺桶もありました。
お経を唱えるお坊さんを珍しく思っていると、母親にぐいっと手を引かれてその祭壇前の座布団に座らされたNさん。
「こうやってこれ手に取って、おでこの前でこうしてからここに置いて」
初めて見る奇妙な粉をジリジリと燃える奇妙な小山にふりかけながら、NさんはKくんを失った悲しみよりも、初めて教わる不思議なルールだらけの空間に緊張、そしてかすかな忌避感を覚えたと言います。
しばらくすると大きなお寿司の桶やジュースが並び始めました。
『あらぁ~、Nちゃん大きくなったわねぇ~』
ふと、視線の先にかつて笑顔でそう話しかけてくれたKくんのお母さんを見つけました。ですが、彼女は見慣れぬ黒い喪服姿で親族に囲まれ、シクシクとハンカチで涙をぬぐっていたのです。
人は死んでしまうともう二度と会えない――この瞬間になって初めてNさんの胸の内側に悲しみ、そして言い知れない恐怖がジトリと染みつきました。
2025.08.10(日)
文=むくろ幽介