ヒョンビン 『ハルビン』という映画に出る選択をしたことが、僕にとって新しい挑戦だったと思いますね。俳優の立場から言えば、実在した人物を演じることにはやはり非常に大きなプレッシャーを感じました。というのも観客がすでに作品を見る前に、その人に対するイメージや考えが予めあるので、そこに寄り添うべきなのか、それとも映画的なイマジネーションの中で作っていくべきなのか、その境界線をしっかり考えながら作っていく必要があるからです。
そしてアン・ジュングンという人物は、韓国では非常に大きな存在感のある象徴的な人物ですので、さらに大きな負担がありました。それでもウ・ミンホ監督に対する信頼がありましたし、監督がおっしゃっていた「意味のある映画を作りたい」という言葉に私もとても共感して、ある瞬間からプレッシャーよりも、この人物を演じ監督と一緒に仕事をすることで意味のある映画を残したい、という気持ちに変わっていきました。

知らなかった面という意味では、私がアン・ジュングンについて知っていたのは基本的なこと、歴史的な事件については知っていたけれど、人物像というのには詳しくありませんでした。今回演じるにあたり役作りの準備として、様々な資料を読んだ上で気付かされたことは、非常に思慮深い人だったのだな、ということでした。それを全部お話しするわけにはいきませんが、いくつかアン・ジュングンの考えの深さを感じさせる例をお話ししますね。
まず、国が強くなるには教育が必要だと考え、彼は学校を作ったんです。さらに子供の頃から、武芸や乗馬に秀でた人でもありました。そして、アジアの平和というものを考えていた人でもありました。とても若かったにもかかわらず、信念を持ち、より良い未来に向けて一歩ずつ踏み出し、行動していた人だったんです。当時のその考えというのは、現代にも通じるところがあるんですね。
互いの作品でそれぞれ印象に残っているもの
――ヒョンビンさんとウ・ミンホ監督が、お互いの作品でそれぞれ印象に残っているものを教えてください。
ヒョンビン 監督の作品を全て観ている人間として、1作だけを選ぶのはとても難しいですね。『KCIA 南山の部長たち』もとても好きですし、『インサイダーズ/内部者たち』もやはり大好きなので。
ウ・ミンホ 韓国にヒョンビンさんの作品を観ていない人はいませんから、私もたくさんあるんです。昔のドラマですが「彼らが生きる世界」ではドラマ監督の役を演じていて、私も監督ですからとてもリアルに感じましたし、「愛の不時着」や「私の名前はキム・サムスン」ももちろん良かった。映画では『王の涙 イ・サンの決断』も力強くて、良かったですね。でも、一番好きなのは『ハルビン』で演じたアン・ジュングンの役ですよ(笑)。


2025.07.29(火)
文=石津文子