「みんな、そんなもんだって」と自分に言い聞かせるが、悔やんでも悔やみきれない。ぬいぐるみに喜んでいる場合じゃなかった。あっちこっちの保険会社から資料を取り寄せて比較検討しておくべきだった。

「がんと診断されたら200万円の一時金」なんて保険の広告を見ると、「なんで、こっちに入っておかなかったんだろう」とグチグチしてしまう。しかも、がんになる1年前に生命保険を解約してしまっている。ドル建ての保険だったけど、円安の影響で積み立てるのがキツくなってきて「もう、いっか」とやめた。病気になったことで必要性を強く感じたが、やっぱり病気になってみないとそんなことはわからないものだ。

 でも、私になにかあったら百々果とママが困るから、残せるものがあるならなんだって残しておきたい。がんになると入れる保険がガクッと少なくなるけど、術後6ヶ月から入れるがんサバイバー向けの保険もあるので、私は入る気満々で資料を集めている。

親の心配、子知らず

 娘の百々果だって将来何があるかわからない。アメリカに住んでいるならなおさら医療費がかかる。

「百々果も保険のことそろそろ考えたほうがいいよ」と伝えると「まだ大丈夫、若いから」と興味なさそうに答える。「病気になっても、日本だったら国民健康保険と民間保険の合せ技でちゃんとした治療が受けられるよ」と話しているけど、本人は「ふ~ん」といった感じ。

 自分も23歳の頃は若さゆえの怖い物知らずで、保険のことなんか微塵も考えていなかった。だから百々果の気持ちは理解はできるけど、親からしてみれば心配だし、「備えあれば憂いなし」を思い知ったばかり。こうなったら、私が良さそうな保険を選んで払ってしまおうかなとも思うけど、百々果は社会人。自分のことは自分で決めればいいのだけど、親からすればそうもいかなくて悩ましいところだ。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

「ファーストクラスや星付きホテルと同じくらいの感動が…」がん治療中の梅宮アンナ(52)が感じた、日本の医療のホスピタリティ〉へ続く

2025.07.24(木)
文=平田裕介