私のがんは、乳がんのなかでも希少な浸潤性小葉がん。乳がん全体の5パーセントだったけど、外資系の保険で対象になっていた。がん治療にどのくらいお金がかかるのか、見当もつかない中で、保険がある安心感は大きかった。

自費だと厳しい入院費用

 でも一番苦労したのは入院費用。入院費が出るのは1回目の入院分だけだったから。

 すっかり芸能界の大枠から外れていると自覚している私だけど、ありがたいことにいまだに二度見されたり、声を掛けられたりする。街なかやお店だったら「あ、どーもー」なんて挨拶できるけど、病院では迷惑になる。命を扱う現場で、患者さんになにが起きるかわからない。

 先生や看護師さんは、常にあっちに行ったり、こっちに行ったりしている。みなさん、ただでさえ忙しくて緊張も強いられているのに、私が相部屋に入ったら、他の患者さんが「梅宮辰夫さんの娘、ここにいるんだって?」なんて訊ねたりして、看護師さんたちに煩わしい思いをさせてしまうことがあるかもしれない。病院に迷惑をかけないためにも、相部屋ではなく個室を選んだ。

 そう考えて選んだ個室だけど、国民健康保険では適用外なので全額自費となるし、そもそも安いものではない。私が使ったのは、1日4万7000円の部屋で、ランクは下の上といったところ。今まで手術や肺炎で4回の入院をしたけど、そのうち3回は全額自費だった。一番入院が長くなったのが、カリニ肺炎のときで2週間。部屋代だけで65万円になり、治療費を合わせると90万円近くにもなった。

 費用の問題で入院を断ったこともある。2025年1月1日に放射線治療のパクリタキセルを投与する予定だったけど、がんセンターの外来は12月27日から1月4日まで休診。先生からは入院を勧められた。

「どうします? 元旦から入院すれば、予定通りにパクリタキセル治療ができますけど」

「でも先生、入院って何日間ですか?」

「3泊4日くらいですかね」

 ざっくり計算すると4日間の入院費は19万円近くなる。変な声が出そうになったが、なんとかこらえた。「さすがにもう出せないな」と考えて、投与の日程をずらしてもらうことにした。

 この時だけはものすごい後悔も押し寄せた。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっている時代。パパを診てくれた先生にも「梅宮家はがん家系」とはっきり言われて覚悟していたにもかかわらず、保険のことまでは真剣に考えていなかった。

2025.07.24(木)
文=平田裕介