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突然スマホの電源が落ちる

 話を聞いているうちに、一軒家に到着した。門扉の内側は庭の植物が鬱蒼と茂り、周りの住宅と比べて一軒だけ異様な雰囲気を呈している。

「めちゃくちゃ植物の力すごいな。まさかここまでひどくなってるとは思わんかった。2カ月前には来てるんだけど。いちおう写真に撮って記録しておくね。あれ?」

 石原さんがスマートフォンのシャッターを切ると、電源が突然落ちた。

「これ、前もなったんだよ、この家で。写真撮ろうとしたら電源が落ちるやつ。これだけはほんと理由がわかんないんだよな」

 植物をかき分け玄関のドアを開けると、そこは完全に「よその家」だった。

 ほぼすべての残置物がそのままで、まるでいまでも生活しているような気配がして、家に上がるのをためらう。

「つい3、4カ月前までは生きてたんじゃなかったかな。普通に生活してた感じが残ってて、手紙とか写真とかもいっぱい出てくるしさ。おじいさんが薬を飲んだあとの形跡とか」

「リアルですね。最後に亡くなったのがおじいさんということですね」

「そうだね。それで、息子さんの1人はお風呂場で亡くなってるとは聞いた」

「先に息子さんが自殺してるってことですか」

2025.07.26(土)
文=松原タニシ、CREA編集部
写真=志水 隆(人物)