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「たぶんだけど寒いからだと思うんだ」

 一軒家へ向かう道中、車内ではいままで石原さんが経験して感じた事故物件の特徴について聞かせてもらった。

「事故物件になりやすい家って、霊的なものというよりは、たぶん住む環境だと思うんだよね。東京にもかつて湿地だったことに由来する地名がいくつかあるんだけど、そういう場所のアパートの一階の一番奥とか、日当たりの悪い部屋とかに、事故物件がよく集中するイメージだね」

「え、何でなんでしょう?」

「たぶんだけど寒いからだと思うんだ。だいたい事故物件になるのは毎年2月あたりに集中するんだけど、東京でも窪地の日当たりの悪い木造建築とかだと、床がとんでもなく冷たくなるんだよね。そういう場所に孤独死も自殺も多いと思う。寒さでメンタルもやられるんじゃないかなあ」「逆に暑すぎて事故物件が多くなるとかはないんですかね?」

「ああ、腐敗が進んじゃうっていう意味ではあったかな。夏場に亡くなって、扇風機回しっぱなしでおじいさんがどんどん溶けてった物件はあったなあ。そのあとに住んだキャバ嬢の子と、親御さんが全然連絡取れなくて、頼まれて見にいったら包丁を振り回してましたみたいなのは聞いたことある。それはなんだろうな。因果関係とかはわからんけど、たぶん気候じゃないかな。エアコンの効きが悪いから扇風機を回さないといけないくらい暑い部屋だったとかさ」

2025.07.26(土)
文=松原タニシ、CREA編集部
写真=志水 隆(人物)