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奥さんはおじいさんの体をふいていた

「うんそうそう、服毒自殺したほうがお風呂場で。もう1人の息子はわからないけど」

「何で自殺したんですかね?」

「いやあ、わかんないけどね、精神的におかしくなってたんじゃないかっていうのは聞いたけど、2人ともね。どっちも結婚してないみたいだからお孫さんもいないみたいで。それから5年くらいかな、おじいさんと奥さんが夫婦2人で住んでいて」

「息子2人が自殺した家に夫婦で住み続けたんですか」

「そういうことになるよね。それでなのか、その前からなのかはわからないけど、奥さんは認知症を患っていて、おじいさんがずっと面倒を見てたみたいだね」

 トイレや台所には何枚も貼り紙があり、達筆で電気のつけ方や、薬の飲み方、何かあったときの連絡先などが書かれていた。おじいさんが奥さんのために書いたものだろうか。

「ところで、おじいさんはどこで亡くなったんですか?」

「リビングの床だね。ここで横たわっていたんだけど、ヘルパーさんが発見したときには奥さんがおじいさんの体をずっとふいてたんだって。死後3日ぐらい経ってたみたいだけど。奥さん、旦那さんがまだ生きていると思ったんだろうね」

» 【初めから読む】【松原タニシの事故物件】帰省で訪れた街で唯一空いていた川沿いのホテルに現れたものとは

松原タニシ(まつばら・たにし)

1982年、兵庫県生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。“事故物件住みます芸人”としても活動し、2025年7月現在までに24軒の事故物件を渡り歩く。レギュラー番組「松原タニシの生きる」(ラジオ関西)、「松原タニシの恐味津々」(MBSラジオ)、「北野誠のズバリ」(CBCラジオ)などのほか、怪談企画の番組、イベントに多数出演。2025年7月25日から、著書『事故物件怪談 恐い間取り』シリーズ(二見書房)を原作とした映画『事故物件ゾク 恐い間取り』が公開。
X @tanishisuki

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2025.07.26(土)
文=松原タニシ、CREA編集部
写真=志水 隆(人物)