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『事故物件怪談 恐い間取り 4 全国編』#01
『事故物件怪談 恐い間取り 4 全国編』#02

事故物件住みます芸人として知られる松原タニシさんが新著『事故物件怪談 恐い間取り 4 全国編』(二見書房)を上梓しました。
全国津々浦々の事故物件を取材し、ときにはそこで暮らすというライフスタイルの中で綴った、まさに松原タニシさんにしか書けないエピソードの数々は、ときに運命のいたずらのようなことが起きることも。
「なぜ僕は事故物件に住むのか」「なぜ人は事故物件に住みたがらないのか」。そんな問いかけから始まる本書から特別に2篇を抜粋してご紹介します。
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「川の字ホテル」

徳島県では阿波踊りの期間中、街は子供から大人まで人でごった返すという。
20年ほど前、関東の大学からお盆休みの間だけ地元に帰ってきたIさんは、彼氏と阿波踊りを観覧したあと、宿泊先を見つけるのに困っていた。どこのホテルも空きがない。唯一、街の中心地から少し離れた、橋を渡った先にある川沿いのホテルだけが一部屋空いていた。

古いホテルだったが「もうここでいいか」と妥協して部屋に入ると、ドアを開けた瞬間にIさんは「何か気持ち悪いぞ」と感じた。
まず部屋に入って正面に、一直線の廊下があるのだが、その先には開かないドアがあり、行き止まりになっている。何のための空間なのかわからない。入口右側にはトイレと浴室があり、浴槽の中には長い足がたくさん生えた虫が数匹いた。
2025.07.26(土)
文=松原タニシ、CREA編集部
写真=志水 隆(人物)