この記事の連載
『事故物件怪談 恐い間取り 4 全国編』#01
『事故物件怪談 恐い間取り 4 全国編』#02
「本当にお札が見つかったら嫌だからやめてよ」

ベッドのある空間に入ると、すべての電気が薄暗い。
「やっぱりこの部屋、無理! 他を探そうよ」
Iさんは耐えかねてフロントに連絡する。
「すみません、宿泊料金は払いますので、部屋を出たいんですが」
「どうかされましたか」
「ちょっと気持ち悪くて、とにかく出たいんです」
「それは無理ですね」
「え、なんでですか?」
「一度入られますと、朝まで出られないシステムなんです」
Iさんは何度も懇願したが、フロントは「出られません」の一点張りだった。
「もうあきらめて、せっかくやからお札とか探そうや」
冷蔵庫にあったビールを飲んで調子のいい彼氏は、壁にかけられた絵の裏を見たり、ベッドの裏をのぞき込んだりしてお札を探しだす。
「本当にお札が見つかったら嫌だからやめてよ」
ふざけた彼氏を真剣に止めようとするものの時すでに遅し、冷蔵庫の裏にお札が貼ってあるのを見つけてしまう。
「どうしよう、まさか本当にあるなんて……」
お札があるということは、何かが出るということだろう。知りたくなかった。しかし見てしまった事実はもう消すことができない。
2025.07.26(土)
文=松原タニシ、CREA編集部
写真=志水 隆(人物)