この記事の連載
「高畑勲展」レポート【前篇】
「高畑勲展」レポート【後篇】
日本の姿を描き、日本人を世界が知る

世界への窓を開いてくれたハイジやアンとは逆に、第三章では「日本文化への眼差し」として、『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』など、日本現代史に着目した作品が見られます。

戦火で生き抜こうとした兄妹の姿を描いた『火垂るの墓』では、鮮やかさを排除した色彩設計が非常に印象的です。
節子や清太の表情や汚れた服装、やつれた姿。燃える家々や金属の消えた部屋。「戦争が何を引き起こすか」が突き付けられます。
庵野秀明監督の貴重な未発表カットも

今回の展示会に合わせたように見つかり、展示の運びとなったのは、庵野秀明監督の担当したカットです。
言わずと知れた『新世紀 エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』など、レジェンドのひとりである庵野監督は、ジブリ作品に原画担当として参加した経験があり、その中のひとつが『火垂るの墓』でした。今回発見された原画は作品内に登場する「重巡洋艦摩耶」のレイアウト。
メカニックに対する並々ならぬこだわりと愛を持つ庵野監督の原画は、下書きでも戦艦の大きさ、迫力が伝わってきました。
過去の日本の姿が眼前に現れる
『じゃりン子チエ』では大阪の人情と街並み、『おもひでぽろぽろ』では山形の紅花栽培の美しさ、さらに『平成狸合戦ぽんぽこ』では、開発によって失われた多摩地帯の里山がユーモラスな狸たちとともに描かれました。

今となっては目にすることが難しい日本の風景、文化を、たくさんの人に届けてきた作品の数々。世界中の人々がアニメを通じて日本文化を知っていると思うと、途方もない功績ですね。
余談ですが、ライターの私は歌舞伎が好きで茶道をやっております。さらに英語関連の仕事も少ししていたのですが、アジア・アメリカ・ヨーロッパ問わず、サブカルチャーを動機として日本に来たという方は大変多かったです。日本の伝統的な文化を知りたいという人に、それこそ『千と千尋の神隠し』や『鬼滅の刃』がきっかけだと言われたことが何度もありました。
2025.07.15(火)
文=宇野なおみ
撮影=末永裕樹