今ではもう作成の難しい汕頭刺繍の巨大テーブルクロスも

「横浜元町に、近沢レースというレース専門店があって、そこから毎年カタログが送られていたんです。あるとき、送られてきたばかりのカタログをパラパラと眺めていたら、汕頭刺繍のテーブルクロスの写真が載っていて、それがあまりに美しくて、『本物が見たい!』と思って、当時は私も車を運転していたので、すぐに横浜まで車を走らせました。実物を見ると写真よりいいので、『欲しい!』と思ったのですが、値段を聞くと、ちょっと手がでない額で(笑)。お店の方には、『すごくいいと思う。でもいくらなんでも買えないわ』と言って、私は家に帰りました。
その次の年、お店に行ったらまだテーブルクロスはありました。近くで見たら、ますます綺麗でうっとりしました。その1年の間に、私も相当綺麗なものを見てきたはずなのに、『ますます綺麗!』って思うんだから、相当の綺麗さなんだわ、とあらためて思いました。で、その次の年もお店に行くと、まだクロスはあって、『綺麗』ってため息が出ました。でも、どうしても必要なものでもないので、やはり買わずに帰りました。最初にこのクロスと出会ってから4年がたったとき、私はまた近沢レースに行って、間近でクロスを見せてもらいました。そうしたら、店主の方が根負けしたのか、『これでいかがですか?』とずいぶん値段を下げてくださって、私もさらに値下げ交渉して(笑)、とにかく折り合いがつきました。
「本物」が集まるのは、深い愛情があるから
今、このクロスは、私の自宅のダイニングテーブルの上にあって、その上にさらに透明なビニールカバーをかけて、汚れないようにして使っています。2017年に、テーブルウエア・フェスティバルでそのテーブルクロスをお披露目したときは、後になって、近沢レースの社長さんからメールが届きました。そこには、『この度は、テーブルウエア・フェスティバルでお披露目してくださって、ありがとうございました。嫁に行った娘と再会したような嬉しさがありました』と書かれていました」

ご本人は「好きなものが集まってしまっただけ」と謙遜するが、間違いなく黒柳さんは“目利き”である。だからといってそのセンスをひけらかすことなく、ただ、「職人さん、素晴らしい!」「なんて綺麗なんでしょう!」と感動をシェアしようとする。黒柳さんの元に「本物」が集まるのは、黒柳さんのものを見る目に、深い愛情が感じられるからなのだろう。黒柳さんのコレクションを見ていると、愛と平和と美は、いつも繋がっていることがよくわかる。
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黒柳徹子(くろやなぎ・てつこ)
東京・乃木坂生まれ。トモエ学園、香蘭女学校を経て、東京音楽大学声楽家を卒業。NHK放送劇団に入団し、NHK専属のテレビ女優第一号となる。その後、文学座研究所、ニューヨークのメリー・ターサイ演劇スタジオなどで学ぶ。テレビ、ラジオへの出演の他、舞台女優としても活躍。著作「窓ぎわのトットちゃん」は、累計800万部のベストセラー。世界でも20以上の言語に翻訳され、全世界での発行部数は2500万部を超える。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。プロのろう者俳優の養成、演劇活動、手話教室などに力を注ぐ。ベストセラーの続編となる「続 窓ぎわのトットちゃん」を2023年に刊行。1984年からは、ユニセフ親善大使として、内戦や災害による貧困に苦しむ子どもがいる国を訪問、メディアを通して、現状報告と募金活動などにも従事している。
Instagram @tetsukokuroyanagi

黒柳徹子ビジュアル大図鑑
ドレスに靴にバッグにアクセサリー、リボンにガラスの文鎮、食器、Youtubeで話題のリメイク服など……。綺麗で可愛いものが大好きな黒柳さんが、これまでに胸をときめかせたコレクションの数々を、オールカラーで一挙公開。それぞれの品物が持つユニークなヒストリーについても語っている。ページごとの色彩感は圧巻で、開くだけでげんきになる一冊。
定価 3,960円(税込)
講談社
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2025.07.10(木)
文=菊地陽子
写真提供=講談社