台湾にある古い“書”を扱う店の店主からの、意外な申し出

黒柳さんは、元々手の込んだ刺繍に目がなかった。ニューヨーク留学中には、着物の価値を再認識したし、「ザ・ベストテン」が始まってからは、森英恵さんのドレスもたくさん身につけるようになった。黒柳さんの40~50代は本物の衣装が持つ普遍的な美しさを、身をもって感じることのできた時期だった。だからこそ、その店に並んでいた中国の着物の数々は魅力的に映ったのだ。すると、日本に帰ってしばらくして、その店主から、「書の方に専念しますので、あの着物はあなたにお譲りします」と連絡があった。
「そのときは本当に驚きました。例えば前回お店に立ち寄ったとき、私が『気が変わったら連絡ください』と言って、連絡先を渡したのならわかるのですが、店主はわざわざ私の連絡先を調べて、国際電話をくれたのです。『どうしてわざわざ?』って聞いてみたら、書のお店に私が訪問したときの写真を飾っていたら、訪れる日本人がこぞって、『この人は有名な人ですよ』と口を揃えたんですって。それで、そろそろ書に専念しようと思ったときに、『この人なら、大事なコレクションを譲っても大丈夫だろう』と思ったというんです」
かくして、一目惚れした着物の数々は、黒柳さんの元へと送られてきた。中国宮廷服は、いずれ企画展のときに黒柳徹子ミュージアムに展示される予定だという。黒柳さんと中国といえば、パンダコレクションも有名だが、もう一つ、毎日、自宅での食事のたびに愛でているものがある。それが、30年ほど前に4年越しの片思いを経て手に入れた、汕頭(すわとう)刺繍のテーブルクロスだ。
2025.07.10(木)
文=菊地陽子
写真提供=講談社