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好きなものに囲まれた生活ができるのは、平和と自由があってこそ

「徹子の部屋」では、同じ衣装は二度と着ない。そう決めた理由は、毎日の衣装を楽しみにしてくれる人を、がっかりさせたくないからだ。とはいえ、放送回数が12,000回を超えたことを考えると、12,000着以上を着たことになるわけだ。着用した服の中には、バザーに出されたものもあれば、普段着として着ているものもある。
森英恵さんのドレスなどは、あまりに貴重なものが多く、せっかくだからと倉庫で大切に保管していた。それらの一部を5月中旬から6月末まで横浜のそごう美術館で開催されていた「GLAM-黒柳徹子、時代を超えるスタイル-」展で展示。展示品のみならず、貴重なアンティークの工芸品にその背景なども掲載された「黒柳徹子ビジュアル大図鑑」も現在発売中だ。帽子に見えないオブジェのような帽子、靴とは思えない不思議なフォルムの靴、精巧な作りのガラスの文鎮など、そのカラフルで賑やかなラインナップからは、黒柳さんの無尽のエネルギーが溢れる。
さらに「GLAM展」の巡回を待たずして、7月5日軽井沢に、「黒柳徹子ミュージアム」がオープンした。建築家・内藤廣さんによる高度な木造建築の中に、「GLAM展」では紹介しきれなかった年代物の着物や、ため息が出るほど繊細な職人技が光るガラスの文鎮、平安時代から受け継がれる子どもの顔に犬の体をした箱型の入れ物の“犬筥(いぬばこ)”、古代ヘレニズムの時代に生まれたとされるモザイクという装飾技術を使ったアクセサリーの数々など、黒柳さんの心をときめかせた逸品たちがずらりと並ぶ。
ものの少ないミニマルな暮らしの方がもてはやされがちな昨今、「好きなものに囲まれて暮らす幸せ」を享受する黒柳さんの生き方は、ミニマルな暮らしができない人にとっては、「これでいいんだ」「これが自分の幸せなんだ」と、自身の所有欲を肯定することにも繋がりそうだ。
黒柳さんのコレクションに触れることは、「癒される」とか「落ち着く」とは違った、「ワクワクする」「元気になる」「少女のように胸がときめく」効能がある。それはまるでパワースポットのようで、自宅に多くのものを所有することを好まない人にとっても、「こんなに手の込んだユニークなものを、徹子さんのような目利きが大事にしてくれているなんて。会いたくなったらまたここに来よう」と思えるかもしれない。
戦争中、周りにあったすべての美しいものを奪われた経験を持つ黒柳さんは、「好きなものに囲まれた暮らしができるのは、平和と自由があってこそ」と語る。美しいものに触れたときの、その感動を一人でも多くの人と共有したい。そんな思いで、今、黒柳さんの社会貢献は“美しいものへの感動を共有し、後世に受け継いでいく”という新たな局面を迎えている。
» 【続きを読む】愛情のある人のところに、本物は集まる。ミュージアム・ピース級の中国宮廷服が黒柳さんの元にやってきた経緯とは?
黒柳徹子(くろやなぎ・てつこ)
東京・乃木坂生まれ。トモエ学園、香蘭女学校を経て、東京音楽大学声楽家を卒業。NHK放送劇団に入団し、NHK専属のテレビ女優第一号となる。その後、文学座研究所、ニューヨークのメリー・ターサイ演劇スタジオなどで学ぶ。テレビ、ラジオへの出演の他、舞台女優としても活躍。著作「窓ぎわのトットちゃん」は、累計800万部のベストセラー。世界でも20以上の言語に翻訳され、全世界での発行部数は2500万部を超える。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。プロのろう者俳優の養成、演劇活動、手話教室などに力を注ぐ。ベストセラーの続編となる「続 窓ぎわのトットちゃん」を2023年に刊行。1984年からは、ユニセフ親善大使として、内戦や災害による貧困に苦しむ子どもがいる国を訪問、メディアを通して、現状報告と募金活動などにも従事している。
Instagram @tetsukokuroyanagi

黒柳徹子ビジュアル大図鑑
ドレスに靴にバッグにアクセサリー、リボンにガラスの文鎮、食器、Youtubeで話題のリメイク服など……。綺麗で可愛いものが大好きな黒柳さんが、これまでに胸をときめかせたコレクションの数々を、オールカラーで一挙公開。それぞれの品物が持つユニークなヒストリーについても語っている。ページごとの色彩感は圧巻で、開くだけでげんきになる一冊。
定価 3,960円(税込)
講談社
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2025.07.10(木)
文=菊地陽子
写真提供=講談社