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ニューヨークで活躍する森英恵さんの利他的な美しさ

後に深い親交を持つことになる、ファッションデザイナーの森英恵さんと初めて出会ったのもニューヨーク時代だ。
「世界的なヘアデザイナーで友人の須賀勇介さんから、『森英恵先生のショーの仕事をすることになったんだけど、せっかくだから見にこない?』と誘ってもらったので行ってみると、ショーで見たドレスも素晴らしかったのですが、それ以上に、ショーの後のパーティで出会った森先生の美しさとエレガンス、そして50年、100年先の未来を思い描いて仕事をなさっている姿勢に、深い感銘を受けました。
当時、ニューヨークの普段着として私が好んできていたのは、イギリスのローラ・アシュレイという女性デザイナーの、花柄にフリルをあしらったジャンパースカートなんかの、少女らしさもある、ゆったりしたシルエットのお洋服でした。当時はヒッピー文化も花盛りで、古着屋さんで、自然素材で少し民族調の洋服を見つけて着ていたりして、ドレス文化にはほとんど触れてこなかった私ですが、留学から戻って6年後に始まった『ザ・ベストテン』では、森先生のドレスが大活躍しました。
当時はまだスタイリストという職業の人がほとんどいなくて、『徹子の部屋』にしても『ザ・ベストテン』にしても、衣装からアクセサリーまで、全部自分で用意していたのですが、ゲストをお招きするときに失礼にならない服装、喜んでいただける服装は何かと、日々頭を悩ませていた経験は、今になってみると私の想像力をものすごく鍛えてくれたように思います」
今でこそ、さまざまなタイプのドレスや着物を、自在に着こなしている印象の黒柳さんだが、そのファッション感度は、「今日のゲストのかたに喜んでいただくためには何を着たらいいか?」と毎日想像することによって磨かれたというのだ。ただ着たいものを着るのではなく、ゲストや番組を盛り上げるためのファッション。黒柳さんの発想は、常に自由でありながら、とても利他的だ。
2025.07.10(木)
文=菊地陽子
写真提供=講談社