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 今年5月、黒柳徹子さんの独自の審美眼によって集められた膨大なコレクションを一冊の本にまとめた「黒柳徹子ビジュアル大図鑑」が刊行された。タイミングを同じくして、横浜のそごう美術館で、「GLAM-黒柳徹子、時代を超えるスタイル-」展を開催(6月29日で終了)。7月には軽井沢に黒柳徹子ミュージアムがオープンしたばかり。

 「私が美しいと感じたものみなさまに披露することで、一緒に喜んでもらえたら」という、「みんな一緒」の精神が、今回のコレクション公開に繋がった。黒柳さんのモノへの愛に触れるインタビュー。

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コレクションに通底するのは、「素敵!」「好き!」という愛情

 黒柳さんのコレクションがユニークである理由の一つは、100円ショップで買ったアクセサリーも、一般人にはとても手の出せない高価な着物や洋服も、人からプレゼントされたパンダグッズも、すべてが黒柳さんの「素敵!」「好き!」という愛情によって、等しく大切に扱われていることにもある。ただ、2017年にオートクチュールビーズ刺繍作家の田川啓二さんと合同で「SU・TE・KI!展」を開催した際に、黒柳さんが所有していた中国宮廷服を展示したところ、それを見た中国服飾文化に詳しい人に、「これはミュージアム・ピースですよ」と言われたこともあるなど、コレクションの中には、歴史的価値を持つものも少なくない。

 「黒柳徹子ビジュアル大図鑑」には、おそらく中国最後の王朝である清の時代(1644~1912)に作られたと推察される宮廷服が3着掲載されているが、そのうちの行掛(こうがい)と呼ばれる羽織ものを手に入れた経緯が面白い。

「40年以上前、私、書を習っていたんです。たまたま入った書の展覧会で、青山杉雨(あおやまさんう)という方の書に、一瞬で魅了されてしまって。他のプロを目指しているお弟子さんたちほど熱心にお稽古はできなかったんですが、ご自宅に伺ったり、旅先からお手紙を出したりして、親しくさせていただいていました。旅行で台湾に行って、台北の街をぷらぷらと歩いていると、店先にずらりと迫力のある書が飾られているお店があったので、何気なく入ってみると、店の奥に中国の着物がズラーっと並んでいたんです。

 着物には、鳥や蝶や花や、当時の人々の暮らしなんかが、すごく緻密に刺繍されていました。刺繍だけじゃなくて、織り込まれている模様も精巧でカラフルで素敵でした。色もすごく鮮やかで、すっかり書よりもそっちの方が気になってしまって(笑)。店主に、『売らないの? 欲しいわ』と言ったら、店主は首を縦に振ってはくれませんでした」

2025.07.10(木)
文=菊地陽子
写真提供=講談社