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AVのアンチか味方か。一言では言い切れない

――現在もAV女優として数多くの作品に出演されている紗倉さんですが、本作には「ゆがんだ感情や欲望の先に生まれた作品に、自分の一部が救われている」とも記されています。ご自身にとって、AVという表現の場のどのような部分が、救いとなっているのでしょうか?

 AVは倫理観がぶっ壊れた設定の作品がどうしても多くあります。ファンタジーだからこそ実現できる世界、という意味では何も間違っていないのですが、それでも唸ってしまうような残酷な企画もあるわけで……。

 女性が乱暴に扱われる作品を見かける度に、この世に様々な性癖を持っている方がいるのは理解できるけど、「本当にこれがユーザーに強く求められ、そしてアダルト界のトレンドに入るほどに売れる作品であっていいのか?」という問いと複雑な思いに駆られることもあります。

 よく、AVは性犯罪を助長しているとも、その逆で性犯罪の抑制になっているとも言われますが、AVにネガティブな世間の意見に思わず頷いてしまうような作品は散見されますし、そうした企画を自分が演じるとなるとやはり悩んだりはします。

 ただ、仮に性癖が一般的なものと比べて歪んでいると看做されたり、倫理観が壊れていたとしても、そうした世界が存在することによって、社会に馴染めていない人たちのセーフティーネットにも同時になっているな、とも思うんですよね。

 こんな、女性の心が蝕まれるような作品が売れているだなんて世も末だと感じる気持ちと、正しく清くという価値観ばかりに浸っているのも息苦しいし、こうしたアングラな世界があるからこそ自分もどこか気楽に生きることができているのかも、という感情のあいだで常に揺れ動いています。

 矛盾している自覚はあるんですが、折り合いをつけるのもなかなか難しい。なので、業界内でも「紗倉さんってAVアンチなの? それともAVの味方なの?」なんて思われてしまっているかもしれず……。ただ、正直な話、どちらかの正義に完全に振り切ることはできないな、と感じています。ずるいですね。

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紗倉まな(さくら まな)

1993年、千葉県生まれ。工業高等専門学校(高専)在学中にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。2016年『最低。』で作家デビューし、この作品は後に映画化され東京国際映画祭のコンペティション部門にもノミネートされた。文芸誌『群像』に掲載された『春、死なん』は2020年度野間文芸新人賞候補作となり注目された。

『犬と厄年』

定価 1,870円(税込)
講談社
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2025.07.05(土)
文=高田真莉絵
撮影=平松市聖