小学校にはやなせさんの著作を多数そろえてあり、5年生を中心に学んできた。
「やなせさんは小学校時代、お母さんと別れて伯父さんの家で過ごしました。弟は先に伯父さんの養子になっていて、引き取られただけのやなせさんとは違いもありますが、お互いに思いやりながら暮らしていきます。そういったストーリーは同年代の児童の心に響きます。弟を亡くした戦争について、やなせさんが抱いていた思いなども、子供達は学んでいきます」
やなせさんが寄付したアンパンマンのからくり時計
玄関入口の下足置き場の壁には、やなせさんが寄付したアンパンマンのからくり時計が取り付けてある。これが意外な効果を生んでいるのだと聞いた。「午前8時と午後4時に鳴るよう設定しています。入学したての新1年生は登校時になかなか校舍に入りたがらないこともありますが、ちょうど学校に到着した頃にからくり時計が鳴ります。『ほら、時計が鳴っているよ。早くおいで』と、自然な形で校内に誘導できるのです」と川村前校長は説明していた。

Gちゃん、Nくんについては、様々な活用をしている。例えば、運動会では出退場門にモニュメントを作る。加えて、Sちゃん、Yちゃんの出退場門も作った。「小学校のSちゃん、優しさのYちゃん。Gちゃん、Nくんの子という設定で、児童が考えました」。
子供達にとっても、やっぱり「優しさ」がキーワードだ。
昨年は「レタスちゃん」も作って来賓席に座らせた。
「各学年の代表が集まる運動会の運営委員会で考えました。レタスはこの年の運動会のスローガンです。練習の成果(R)、笑顔で(E)、楽しく(T)、明るく(A)、最高の(S)、運動会(U)。頭の文字をつないだのです」
やなせさんの作品や人生、考え方から学んで、新たな発想につなげている後輩の小学生達。
徳久衛さんはやなせさんから「子供達を生むのは私。でも、育てるのはあなた達です。ぜひ、いろんな形で育ててください」と言われたことがある。
後免野田小学校では、やなせさんが残したものが今なお息づいているだけでなく、児童が育て続けている。
撮影 葉上太郎

2025.07.16(水)
文=葉上太郎