息子の友人に惹かれてしまう女性を熱演

『魔物(마물)』では魅力のある男を目の前にして大きく揺れ動く女性・最上陽子を演じていた神野。陽子は、元人気キャスターで、現在は業界最大手のコスメブランド「MYクイーン」を立ち上げた実業家。夫は20代で作家としてデビューし、現在は大学で教授をしており、一見何不自由ない立場に見える。

 だが、息子が自宅につれてきた友人の凍也(塩野瑛久)との出会いが、彼女の人生を狂わせる。凍也はとにかく不思議な魅力のある美しい男で、陽子も一目見た時から彼に引き込まれてしまったようだ。

 陽子は関係が上手くいっていないとはいえ夫のある身であり、惹かれているのは息子の友人。そんなふと頭によぎる“常識”が、陽子が堕ちていくのをあと少しのところで引き留めてくれる。その“ハッとした瞬間”を、神野はふとした表情の変化で演じてみせた。その表情の切り替わりが余計に凍也から漂う、悪魔的な抗えない魅力を感じさせるものとなっていた。

『あんぱん』次郎の死後はどうなる?

 一方で『あんぱん』で演じた節子は、ちょっと変わり者の息子のことをよく理解している、根っから優しい母。のぶとは一緒には暮らしていないようだったが、食料を分け合ったり、一緒に台所に立ったりと関係は良好のようで、のぶも安心している様子だった。

 節子とのぶが次郎のことを話題にして笑っていた場面は、特に最近は辛い展開が多い『あんぱん』の中で、ほっとした瞬間だった。神野はこんなにも性格の異なる2人の女性を同時期に演じ、その心情までわかるように丁寧に演じ分けていたのだ。ドラマにひっぱりだことなるのも納得である。

『あんぱん』では、ついに節子が大切に育ててきた次郎が亡くなってしまった。今田美桜演じるのぶと2人で次郎を看取るシーンは、セリフが少ないゆえに、2人の表情が悲しみと絶望に染まっていくさまが印象深かった。

 悲しみのあまり家族に心配されるのぶのことも心配だが、節子にはそんな家族も近くにはいない。彼女が壊れてしまわないことを願うばかりである。

2025.07.13(日)
文=久保田ひかる