歌入り「東風」の再現は圧巻
いよいよ最終曲となった「東風」は圧巻。松武秀樹が操作するモーグIIICによるオリジナルのままの音色と、ゲストで再び登場した坂本美雨のヴォーカルで会場のYMOファンは大きくどよめくことになった。この「東風」はYMOのデビュー・アルバムの全世界発売版に収録された同曲のヴァージョンを再現し、日本版にはない歌が加えられたもの。かつて吉田美奈子が担当したその英語の歌を坂本美雨が雰囲気たっぷりに美しい声で再現。
モーグIIICのアナログ・シンセならではの太く柔らかい音色とあいまって、YMOのライヴでも披露されたことのない歌入りの「東風」が21世紀のいま見事によみがえっていた。この曲で坂本美雨に歌ってもらうというアイデアも松武秀樹が思いついたものだ。「東風」のレコーディングに参加していた本人だからこその発案だろう。

“イエロー・マジック・チルドレン”の時とはまたちがった新解釈
最後、YMOの「エピローグ」が流れてコンサートは終了。趣旨的にポップな初期、後期からの選曲が多かったが、カリスマティックな中期のYMOには「来たるべきもの」で始まり、「エピローグ」で終わるという1981年の“ウィンター・ライヴ”の構成を再現することで敬意を表したのかもしれない。
テイ・トウワによるDJセットから最終曲「東風」まで2時間強。あっという間の時間だったが、豪華なゲストはもちろん、演奏を担当したモダン・ヴィンテージ・フューチャー・オーケストラがすばらしかった。YMOとの共演経験も豊富な高野寛、高田漣、ゴンドウトモヒコはもちろん、鈴木正人と大井一彌によるリズム隊もYMOの影響を感じさせつつ自分たちのオリジナリティも遺憾なく発揮。このふたりならではなグルーヴでYMO楽曲を支えた。

そしてもちろん、バンドマスターの高野寛。バンド・メンバーやゲストと相談しつつ直系のYMOチルドレンの代表として、アレンジを決め、演奏を指揮した。半年もなかったという短い準備期間にこれだけ神経を使うイベントを成功に導いた功績者はまちがいなく高野寛だ。彼の最新のソロ・アルバム『モダン・ヴィンテージ・フューチャー』(2024)はYMOからの影響を自分なりのポップ・センスで消化、昇華した傑作だったが、このアルバムの制作がかつての“イエロー・マジック・チルドレン”のときとはまたちがったYMO楽曲の新解釈を実現させたのだろう。

2025.06.27(金)
文=吉村栄一