この記事の連載

 12月2日に東京・麻布台ヒルズの大垣書店で開催された、岡村靖幸さんの『幸福への道』出版トークイベント「夜の読書会」。脱線やユーモアを大いに交えつつ、対談に来てくれた個性的なゲストとの印象深い思い出を語り尽くします。

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スパークスは「寅さん」が大好き

――そして、50年以上のキャリアを誇るアメリカのポップバンド、スパークスの2人ともオンライン対談が実現しました。

岡村 ちょうど彼らについてのドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』や、彼らが音楽を担当したレオス・カラックスのミュージカル映画『アネット』が公開された時期。『アネット』は素晴らしい映画だったので僕は結構感動したんです。確か、カンヌで賞を獲りましたよね?

――はい。2021年のカンヌ国際映画祭で監督賞を。

岡村 しかし50年以上もアクティブに音楽活動を続けられるって、これほどの幸福はあるだろうか。

――スパークスは兄弟なんですが、兄ロンさんは来年80歳、弟ラッセルさんは来年77歳。もちろん、キャリアの中で浮き沈みもあるわけですが、世界中の音楽ファンに世代を超えて支持され続けることで歩を停めず、新しい音楽を作り続けている。素晴らしいですよね。

岡村 そのせいか、すごく若いんです、2人とも。あと、彼らは「寅さん」が大好きだと言ってたのが面白かった(笑)。

岡村のダンスを見た田中泯の一言

――ダンサーの田中泯さんとも会いました。泯さんのドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』に岡村さんが感銘を受けたことがきっかけでした。

岡村 僕にとっての田中泯さんは、「前衛」の印象だったんです。麿赤兒さんや山海塾のようなアーティスティックな方なんだろうなと。でも、泯さんは、ある時期から農業をやりながらダンスをするというライフスタイルを始められて。生活とダンスがつながっている、というお話が興味深かったですね。

――実は、私がいちばん驚いたエピソードは、アメリカのロックバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとのエピソード。泯さんは彼らと交流があり、ルー・リードが亡くなったときはお葬式で踊ったそうなんですが、泯さんがヴェルヴェットと出会ったのは1984年のチェコ。当時のチェコは旧ソ連の支配下にあり、共産党の圧政が続いていた。そんな中、彼らは秘密クラブでライブを行い、泯さんはそこでダンスをしたんです。で、このお話を聞いた後、NHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」を観ていたら、89年に起こったチェコのビロード革命(民主化革命)の話をやっていて。ヴェルヴェットの曲が、後にチェコ共和国の初代大統領になるヴァーツラフ・ハヴェルさんたちが起こした民主化運動の背中を押したのだ、と。つまり、彼らにとってヴェルヴェットは自由の象徴であり、そしてそこに泯さんもいらっしゃって、自由のダンスを踊り、ハヴェルさんも実はそれを観ている。うわー! と思って鳥肌が立ちました。

岡村 歴史の転換期に実際に立ち会われていたんですね。

――すごい話です。ちなみに、この日の取材前、岡村さんがダンスしている映像を編集長が田中泯さんに観せたんです。泯さんはしばし黙ってじっと観て、「これは神楽だな」と一言。

岡村 はははは。

2024.12.27(金)
文=辛島いづみ
写真=佐藤 亘