中学入試で使われた村田沙耶香との対談
――小説家の村田沙耶香さん、僧侶のネルケ無方さん。お二方とは期せずして「信じること」や「宗教」についてのお話になりました。
岡村 村田さんとは盲信することの快楽について。人間って、信じるものがなにもなければ、ひとつひとつのことに対して悩みながら生きていかなければならなくなる。だから、宗教みたいなものがあるんだろうなと思うんです。これこそが絶対だというものを信じていれば、ひとつひとつの問題に対して迷う必要がなくなるし、そしてその先には快楽があるんじゃないかと。
――信じることの快楽。迷わなくていい快楽。
岡村 村田さんの小説『コンビニ人間』もそういうお話で、コンビニで働くことに対し、迷わず盲信していく。その後出された短編集『信仰』もそうでした。そしてその「盲信」は、「幸福への道」にもつながっていて。だから、これが自分にとって絶対、これが神である、そう思うのなら、それは猫でもブランドバッグでも美容液でも食べることでも何でもいい。何かを盲信することで幸せになるのであれば、何かを信じることでその人が救われるのであれば、それによって幸せで健康になるのであれば、何を信じてもいい。周囲が迷惑を被らなければ何を信じようが自由だ、僕はそんなふうに思うんです。
――村田さんとの対談は白眉。ちなみにこの対談、とある私立中学の入試で使われているんです。岡村ちゃんファンの国語の先生が考えたんでしょうね(笑)。
岡村 うれしいことです。
――一方、ネルケ無方さんは、岡村さんがEテレの早朝番組「こころの時代~宗教・人生~」という番組をたまたま観て、「会いたい」と。いつもチェックしてる番組なんですか?
岡村 はい。毎回録画してます。それでネルケさんがたまたま出てきて。ドイツの方なのに、日本へやってきて修行し、僧侶になった。とてもユニークだなと。
――ネルケさん、僧侶になった動機の根底には、幼い頃から「人間は何のために生きているのか」という疑問があったとおっしゃっていました。
岡村 お母さんを早くに亡くされ、生きることについて考えるようになり、仏教に興味を持つようになったと。そして、日本にやって来て、禅寺で厳しい修行をされた。修行って坐禅を組むだけじゃなく、寺での生活すべてが修行。ご飯をつくること、食べること、畑を耕し作物をつくること、掃除をすること。それを何年も何年も続け、お寺のトップになった。苦行を重ねることで快楽を感じるようになったのか。寺を下りたいまは何を感じているのか。そういうことを知りたかった。そして、人はなぜカルトに走ってしまうのか、という話をしたときに、「心を救ってくれる本物の教会や寺は水を出すけど、カルトの場合はジュースやお酒を出す」というたとえ話が面白かった。
――岡村さんはジョン・レノンを敬愛していますが、その息子、ショーン・レノンさんも登場してくれましたね。
岡村 とっても貴重なインタビューになったと思います。お母さんであるオノ・ヨーコさんについても、ショーンさんがどんな子供時代を送ってきたのかを聞くことで、人となりがわかりましたし。あと、彼が「普通の生活」がしたくてスイスの全寮制の学校へ行くことを自分で決断した、というエピソードも印象的。世界一有名な親を持つというのは、僕なんかには想像できないほどの葛藤や苦しみ、軋轢のようなものがあるんだろうなと感じました。
SNSが沸いた、吉川晃司との「同級生対談」
――そして、漫画家のよしながふみさんと『日出処の天子』などの漫画談義をしたり、盟友・斉藤和義さんと知られざる吉祥寺時代の話で盛り上がったり、鈴木おさむさんにSMAPの「真相」を聞いたり、立川談春さんと立川談志さんの話をしたり。それぞれ濃厚な話が多かったんですが、なんといっても吉川晃司さんとの対談ですよね。
岡村 編集部の人たちがうれしかったということでしょ?
――そんなことありませんよ! 吉川さんと岡村さんの「同級生対談」はSNSでめちゃくちゃ話題になりましたよ! お二人はデビューの頃からの親友ですし、実にメディアでは30年以上ぶりとなる2ショットは誰もが待ち望んでいたものだったんです。ちなみに、ポートレートはバーラウンジで撮影して、お二人の間に1つ席を空けて撮ったんですが、そこに空席がある意味を深読みする人が続出したんです。
岡村 そんなに盛り上がってました?
――めちゃめちゃ沸きましたよ! どうでしたか、久々の吉川さんは。
岡村 何も変わってないし、華もあるし、相変わらず素敵なままだし。デビューから40年以上にわたって彼はずっと芸能界の第一線で活躍し続けている。僕ら、10代の頃から知ってる間柄ですから、それはもう感慨ひとしお。同世代として誇らしい存在だなと思っています。
――20代の頃、「3人」で六本木界隈で遊んでいたときの知られざるエピソードも面白かったし、吉川さんに誘われてキャンプへ行った話も最高でした。
岡村 そうね、石垣島ね。
――岡村さんは、吉川さんと二人きりのキャンプだと思い込んでいたら、翌朝、岡村さんの知らない吉川さんの地元(広島)のお友だちがワイワイやってきて、岡村さんがヘソを曲げて帰っちゃった、というのが最高でした。
岡村 だって、彼、友だちが来ると突然「〜じゃけんのう」って言い出すんだもん。東京にいるときは全然言わないくせに。そういうの、不思議に思いました。
――菅原文太の「朝日ソーラーじゃけん」的な(笑)。でも、仕方ないのでは? 地元の友だちに会うと出ちゃいますよ。
岡村 僕が「じゃけんのう」に対する抵抗力をつけてから言ってほしかった。それまで一切口にしたことがなかったのに、唐突に、しかも初めて行った南の島で「じゃけんのう」を発動されたら、僕の居場所はないじゃない。何聞いても「じゃけんのう」で返されるんだもの。
――あはははは。
岡村 何が始まったのですか! どういう世界観なのですか! 突然、知らない世界に放り込まれたのと同じです。東京でもたまに広島弁を出してくれていれば、「ああ、こういうしゃべり方をするんだね」と免疫もつくのに、そんなことも一切なかった。だから「いいよ、もう帰る!」って。
――あはははは。それから、岡村さんが吉川さんに「助けてくれ! 腹が減って死にそうだ!」と電話したエピソードも最高でした。
岡村 ああ、断食道場行ったときの。僕、本でもしゃべっていますけど、昔、断食道場に通っていたことがあって。初めて行ったときに、空腹に耐えられなくて電話したんです。しかも、吉川だけじゃなく、いろんな人に電話してるんです。Charaとか。
――え! Charaさんにも!
岡村 よく覚えてないんだけど、電話したらしい。
――しかも、断食道場はお寺だから電話なんてなくて、お寺の外の公衆電話からかけたんですよね? 吉川さん、「どうしたの? どこにいるの? って聞いたら、途中で電話が切れた」って(笑)。
岡村 ネットの時代じゃなかったから、LINEでスタンプを送るとかそういうことはできなかったんですよ。
2024.12.27(金)
文=辛島いづみ
写真=佐藤 亘