相談者と同じ目線を持ち続けられる理由

姑と同居し、仕事やりながら家事育児をした話をすると「上沼さんの人生は誰も真似できない」とよく言われます。確かに漫才師になって、結婚して専業主婦になると言って、22でスパッとやめた。でも燃え尽きたわけじゃなかったんですよ。
私が漫才師になった時は、「うら若き乙女がお笑い?」っていう時代。一緒にやっていた姉も元々役場に勤めたいっていうのをお父ちゃんに無理やり漫才師にさせられましたから。今はM-1があって、芸人に憧れる女性も多いですけど、私は女性が芸人なんてとんでもない、という時代に笑われる仕事についたわけです。本当は歌手になりたかった。絶対ヒット曲が出なかったのはわかってるんですが、なりたかったものは自由に言わせてくださいよ。だから結婚して漫才師をやめることに未練はなかったんです。
同じ汗を流すにしたって、キー局でバラエティ番組に出演できたら簡単だったろうなと思うんですよね。「いや、あんた大阪やから売れたんやわ」っていう人おるけど、違う。自分自身がいちばんわかってる。大阪でチマチマしてたのは、ローカル局に夫が勤めとったからね。琵琶湖を越えたらあかんかったんです。夫が好きだったから、もうしゃーない。そこは運命ですね。本当に悔やまれますね。子どももいる、姑もいる、お金がかかる、家ももっと大きくしたい……おしゃべりの仕事は、必要に駆られてやってきただけのこと。
でも、それがいつしか私の目線になった。人生相談も一緒に悩みましょう、と私の目線で答えているから、共感していただけるんだと思います。だから井戸端会議ですね、人生相談はその延長として捉えてもらったらちょうどいいです。
だって、人生相談に正解なんかないから。背中を押すまでいかなくても、聞いてもらってすっきりしたわ、よっしゃ明日から頑張ろう、みたいな気持ちになってくれたらいいわけです。「正解はこれだったのか!」って膝を叩くんじゃなくてね。そんな回答なんかないですよね。人生相談って、発明じゃないので。新しい薬を創ってるわけじゃない、人間社会の中で、ああでもないこうでもないと言ってるだけ。だから同じ目線で気持ちがよくわからないとダメなんです。
2025.06.22(日)
文=西澤千央
写真=文藝春秋
CREA 2025年夏号
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