人生相談に答える時に言わないと決めていること

 時々人生相談の先生でふんぞり返ってる方がいらっしゃいますけど、とんでもない。私は相談者と一緒の目線だから、あつかましくも相談員ができるわけです。決して「ちょっとお座りなさい。今日は何?」じゃないんですよ。目線が一緒やから、なんとなくわかって差し上げることができるんじゃないでしょうか。

 芸能人は決して特別な存在ではないんです。こんなこと言うたら悪いけど「歌一筋で来たから、きゅうりも刻めない」とかあきませんやん。一般常識知らないで、何が芝居だ、何が歌だ、何がお笑いだと私は思います。常識を知っとかないとダメ、社会人としてね。大きな事務所にいたら全部やってもらえるから、楽屋に入って着替えて化粧して歌っとったらええとか、それは一番ラクや思いますけどね。でも、例えば歌手が結婚して子どもを持つとなったら「私は芸能人だから、産んだけど育てません」ってわけにはいかないので、苦労すると思うんですよ。そういう苦労は買ってでもせなあかんわ。常識はね、人間として持っとかな、しんどいよね。この人間社会の仕組みというのをちゃんと知っとかないと。

 人生相談もそうなんです。神様やないねんからね。一緒に悩んで、わかるわかるって言ってあげるとこから始まっていますよね。

 相談に答える時、これだけは絶対に言わないと決めていることがあります。それは「関係者のみなさんで話し合いましょうね」っていうフレーズ。多いんですよ、意外と。「それはちょっと誤解かな。考えすぎですよ。みんなで話し合えば解決」みたいなね。最低の回答やと思いますわ。まぁ気持ちはわかるんですよ。そう答えるのはラクやから。ラクやし、自分もエエ人に感じるしね。でも相談者はそんなん望んでない。そんなら「北の窓にええ塩盛れ」のほうがまだましですよ。

 私も70歳になりまして、だいたいのことは経験してきてますから、30代の時より回答の引き出しはできました。経験だけじゃない、思いもパイ生地のように、年齢とともに重なっていく。その間、テレビ、ラジオやってきたわけですから。いろんな人と出会って、裏切りも受ける、感動もする。相談を受ける人間として、そういう引き出しはたくさんできたなと思います。ありがたいです。でも引き出しは増えても、いつも答えがすんなり出てくるとは限らない。行き詰まんねん。答えになってへんやんと思うことばっかりですよ。でも結果的には答えになってるんです、これが。一番あかんのはやっぱり「話し合いましょう」やね。あんなの料理の最後にマヨネーズかけんのと一緒やん。結局マヨネーズをかけたらね、味まとまりますやん。妙に美味しくなりますやん。「もうみんな笑顔になれば世界は一つ」とか「はあ?」って思うんですよ。だから私の人生相談のポリシーは完全に自分で書くこと。自分で考えること。それとまあ経験やな。経験とか自分の感性で答えさせてもらって、「話し合いましょう」は決して言いません。

2025.06.22(日)
文=西澤千央
写真=文藝春秋

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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