五輪延期が決まった日に…「練習を休みたいです」「だめだ」
――どのように持ち直したのでしょうか。
三宅 父に「今日は練習を休みたいです」と言ったら、「だめだ」「いつ開催されるか分からないからこそ準備しておかなきゃいけないんだ」って。「お願いだから今日くらい休ませてよ」と思いながら仕方なく練習を始めると、ものすごくすっきりしたんです。私はやっぱりこの競技が本当に好きなんだと再認識しましたね。
ただ、「記録なし」で終わってしまったことは今でも悔しさが残ります。バーベルの重量の選択をミスして、失敗してしまった。焦って冷静に考えられなかった。私の体のピークはとうに過ぎていたと実感しました。

リオで終えていれば、かっこいい姿で引退できたのかな。そう思うこともありますけど、成長過程も、ピークも、年齢を重ねることでの衰えも、五輪という場で自分のすべてを出し切れたのは意味のあることだったんじゃないかなと思っています。
コーチになって思い出すのは父の言葉
――現在は指導者としてご活躍されていますが、競技者との違いはありますか?
三宅 現役時代、父が「バーベルを上げるのは選手だけど、コーチも一緒に上げているんだよ。だから身も心もきつい」と言っていたことがありました。当時はあまり意味が分からなかったんですが、コーチになった今はよく理解できます。

最適解の言葉を伝えるには、選手を常に観察して、状態を把握してなければならないんだなと。日々、父の言葉一つ一つを思い出して、あらためて噛みしめていますね。
撮影=鈴木七絵/文藝春秋
〈「出産にはリミットがある」「収入が途絶えるという問題も…」1歳児の母・重量挙げメダリスト三宅宏実(39)が語る、“育児とキャリア”両立のリアル〉へ続く

2025.06.21(土)
文=吉井妙子
撮影=鈴木七絵