『逃げ恥』みくり、『けもなれ』晶……報われない“しごでき”ヒロインたち

 ヒロインが成長するドラマでは、だいたい主人公が何らかの困難に立ち向かい、それを乗り越えようとするプロセスを描くことで物語をおもしろくしようとます。主人公が悠々と成功しているだけではドラマになりにくいのです。

 現実でも仕事で能力を発揮する女性が、性別による偏見、昇進の壁、育児や介護との両立など、さまざまな困難に直面することは少なくありません。高い成果を出すためには、プライベートを犠牲にしたり、想像以上の努力を強いられたり、ストレスを抱えたりすることがあります。さらに、男性優位の社会で女性たちはセクハラパワハラ、仕事における不利益などを受けることも。

 『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)を思い出してみてください。みくり(新垣結衣)は「大学院卒」なのに派遣社員で、しかも契約を切られてしまいます。仕事ができて知性もあり、気遣いもできて、ヒューマンスキルも持ち合わせているのにこの有り様です。

 『獣になれない私たち』(2018)の主人公の晶(新垣結衣)は、営業アシスタントでありながら、営業社員よりも仕事ができるし、一番まじめに仕事もして、目立ったミスもしない存在。でも、彼女が一番怒鳴られて、セクハラ被害にも遭い、ストレスを抱えていました。

 ……あの、「しごでき」女性の負荷、やばくないですか? というか、仕事ができてもこんな境遇なの、キツすぎます(これが現実なのかもしれないけど、だとしたら余計につらすぎる……)。

 ただでさえ生産性が求められる社会では、「仕事ができること」が絶対的な価値基準になってしまいがちです。もちろん、仕事で成果を出すことは素晴らしいこと。しかし、誰もが完璧超人である必要はないはず。網浜さんの存在は、「仕事はポンコツでも、私、最強だし!」と高らかに宣言しているかのようです。こういう人も、もっとドラマの中にいてほしい!

 『無能の鷹』の鷹野さん(菜々緒)にも似たものを感じましたが、令和のドジっ子ヒロインの共通点としては、ドジで無能な自分を恥じることなく常に堂々としていて、そもそも「成長促進」になんて興味ないことが挙げられます。それってつまり、他者評価を気にしない、他者から無闇に「愛され」ようとしない、ということだと思うのです。

 そしてそれは、かつてのドジっ子ヒロインが持っていた「愛され力」「愛嬌」とは異なるスキルです。でも網浜さんに対して呆れながらも「なんだか憎めない」「むしろおもしろい」と感じてしまう人も多いはず。つまり、令和のドジっ子ヒロインたちは、従来とは違う、もっとパワフルで、自立した(?)新しい形の「愛され力」を身につけているといえるのではないでしょうか。それは同時に自分を「愛する力」とも言い換えられます。

 彼女たちの生き様は、私たちに「完璧じゃなくてもいいじゃない」「自分を貫くって、ある意味最強かも」と、ちょっと変わった角度からエールを送ってくれているのです。

2025.05.26(月)
文=綿貫大介
写真=NHK